神経診察の全体像
中枢神経系(大脳) | ・見当識障害 ・両眼の眼位異常 <運動神経(錐体路)> ・バレー徴候 ・ミンガツィーニ徴候 ・バビンスキー反射 ・口角挙上試験(しわ寄せはできる) ・健側への舌の偏位(舌萎縮・線維束性収縮なし) ・上肢や下肢のMMT低下 <感覚神経> ・顔面3領域すべてに感覚障害 |
末梢神経(脳神経系) =脳幹 |
<中脳起点> 3:患側に片側性の眼瞼下垂・散瞳・対光反射消失、輻輳反射消失、複視、片眼の外転 4:斜に構えて物を見る、複視 <橋起点> 5:顔面3領域いずれかに感覚障害 6:片眼の内転、複視 7:口角挙上試験(片方のしわ寄せできない) 8:眼振、難聴 <延髄起点> 9・10:健側への軟口蓋・口蓋垂の偏位、カーテン徴候 12:病側への舌の偏位(舌萎縮・線維束性収縮あり) |
小脳 | 鼻指鼻試験、回内・回外試験、膝踵試験 |
末梢神経(運動神経) | 上肢や下肢のMMT低下 |
頭部以外の感覚神経 | 温痛覚、触覚、振動覚、位置覚 |
反射 | バビンスキー反射、膝蓋腱反射 |
認知機能の診察(大脳レベル)
わかること | |
見当識 | 時間・場所・人を認識できない場合は前頭葉障害が疑われる。 |
常識 | 「今の総理大臣は?」など常識が回答できない場合は前頭葉障害が疑われる。 |
計算 | 計算ができない場合は頭頂葉障害が疑われる。 |
近時記憶 | 「朝何食べた?」を回答できない場合は側頭葉障害が疑われる。 |
遠隔記憶 | 「卒業学校は?」を回答できない場合は大脳連合野の障害が疑われる。 |
脳神経系の診察
①視野→視N(2)など
わかること | 視野欠損の評価により、視N→視交差→視索→後頭葉の病変がわかる |
方法 | 周辺視野「片目を手で覆って視線を動かさず、動いた指を指差して」 中心視野「片目を手で覆って、この文字読んで」 |
原因 | ※詳細は眼科の視覚伝導路を参照 |
②眼球運動→動眼N(3)・滑車N(4)・外転N(6)
わかること | 眼球運動障害により、3・4・6病変、脳出血がわかる |
方法 | 「私の指を顔を動かさず、目だけで指を追って」 |
原因 | 【片眼の眼位異常】 ①眼の内転:外直筋←6の病変 ②眼位の異常:外眼筋←3・4の病変(斜視の可能性もある) 【両眼の眼位異常】 ③病側への共同偏視:被殻出血によりPPRFに伝わる神経線維が障害され、交差前の障害のため病側への共同偏視となる。 ④健側への共同偏視:小脳出血によりPPRF(橋)が圧迫され、交差後の障害のため健側への共同偏視となる。 ⑤鼻先凝視:視床出血により中脳のriMLFを圧迫し、上方視が障害され内下方の鼻先凝視となる。 ⑥正中位固定:橋出血により両側の神経線維が障害され正中位となる。 |
【複視】
①動眼神経麻痺 | 糖尿病、IC-PC動脈瘤、脳底動脈瘤(後大脳動脈と上小脳動脈間)、脳腫瘍など |
②外転神経麻痺 | 頭蓋内圧亢進時 |
③神経・筋接合部の障害 | 重症筋無力症 |
④脳幹梗塞 | Weber症候群、MLF症候群、one-and-a-half症候群 |
③調節・輻輳反射→視N・動眼N
わかること | 寄り目にならない場合、中脳→動眼Nの病変の可能性 |
方法 | 「指先を見つめていて(寄り目になる?)」 |
原因 | ※調節反射:視N→中脳(EW核)→動眼N→瞳孔括約筋収縮により縮瞳 ※輻輳反射:視N→中脳(動眼N核)→動眼N→内直筋収縮により内転 |
④対光反射→視N・動眼N
わかること | 縮瞳しなければ、視N→中脳→動眼Nの病変の可能性 |
方法 | 「遠くの方を見ていて、目に光が入るよ」 |
原因 | 直接対光反射(ー)間接対光反射(+):視N障害 直接対光反射(ー)間接対光反射(ー):動眼N障害 ※対光反射:視N→中脳(EW核)→動眼N→瞳孔括約筋収縮により縮瞳 |
④眼裂・瞳孔の異常→動眼N(3)・交感Nなど
【眼瞼下垂】
障害筋 | 原因 | 疾患 |
上眼瞼挙筋 | 挙筋自体の異常 | 先天性、眼筋ミオパチー、ミトコンドリア脳筋症 |
挙筋腱の伸展 | 加齢性、コンタクトレンズ | |
動眼神経麻痺 (通常一側性) |
動脈瘤(内頸動脈-後交通動脈分岐部、脳底動脈-上小脳動脈分岐部)、Weber症候群、糖尿病 | |
神経筋接合部異常 | 重症筋無力症、ボツリヌス中毒 | |
ミュラー筋 | 交感神経麻痺 (通常一側性) |
Horner症候群 |
【瞳孔不同】
特徴 | |
①Horner症候群 (C8~T2の交感神経障害) |
①瞳孔不同(患側縮瞳):対光反射正常 ②一側の眼瞼下垂・瞼裂狭小:下眼瞼が健側よりやや上に位置する ③眼球陥凹: ④発汗減少 |
②Adie症候群 (瞳孔緊張症) |
①瞳孔不同(患側散瞳):対光反射消失 ②? |
③動眼神経麻痺 | ①瞳孔不同(患側散瞳):対光反射消失(糖尿病性では生じない!) ②一側性の眼瞼下垂:上眼瞼のみ下垂し、下眼瞼は上にあがらない ③眼球運動障害:複視 |
⑤顔面の感覚→三叉N(5)
わかること | 感覚異常がある場合、感覚野→橋→三叉Nの病変の可能性 |
方法 | 「額・頬・顎で左右差はある?(ティッシュ:触覚、爪楊枝:温痛覚)」 |
原因 | ①3領域すべてに感覚障害 中枢性:対側の感覚野→橋に病変がある ②3領域いずれかに感覚障害 末梢性:橋→三叉N一枝に病変 ※V1は角膜反射の求心路も司る(遠心路は顔面N支配) ※V3は咀嚼運動や舌前2/3の感覚も司る |
⑥顔面筋の筋力→顔面N(7)
わかること | 以下試験に異常がある場合、運動野→橋→顔面Nの病変の可能性 構音障害によりパ行(口唇音)が言いにくい。 |
方法 | ①しわ寄せ試験:「上見て眉を挙げて額にシワを作って」 ②閉眼運動(まつげ徴候):「目をギュッと閉じて」 重度は兎眼、軽度は睫毛の隠れ方に左右差あり ③口角挙上試験:「歯を見せながらイーってして」 片方の口角だけ上がる、ほうれい線に左右差あり |
原因 | ①片方の口角のみ上がらない 中枢性:運動野→橋に病変がある ②片方のしわ寄せできない、まつ毛の左右差あり、片方の口角が上がらない 末梢性(Bell麻痺など):橋→顔面Nに病変がある |
⑦聴力→内耳N(蝸牛N)
わかること | 聞こえない場合、蝸牛N(8)の障害の可能性 |
方法 | 耳付近で指パッチンをして「聞こえますか?」 |
原因 | 【Rinne試験】 振動させた音叉を乳様突起にあて、骨伝導で音が聴こえなくなったらすぐに外耳孔付近に移す。聴こえた場合はRinne陽性で正常 or 感音難聴、聴こえない場合はRinne陰性で伝音難聴。 【Weber試験】 振動させた音叉を前頭部にあて、どちら側の音が大きいか確認。正中なら正常、健側なら感音難聴、患側なら伝音難聴。 |
⑦眼振→内耳N(前庭N)
わかること | 眼振により、8・前庭器官・中枢神経の病変がわかる 注視させて眼振あれば中枢性の可能性あり! |
方法 | |
原因 | ①水平・定方向性:内耳N(前庭N) ②水平・注視性:左右差なければ橋 or 左右差あれば小脳橋角部 ③垂直・下眼瞼方向性:延髄下部 ④垂直・上眼瞼方向性:中脳 ⑤回転・定方向性:延髄または内耳N(前庭N) ⑥回転・注視性:小脳半球 |
⑧軟口蓋・咽頭壁運動→舌咽N(9)・迷走N(10)
わかること | 片側の軟口蓋が挙上せず偏位があれば、舌咽N・迷走N←延髄の病変の可能性 構音障害によりガ行(喉音)が言いにくい。 |
方法 | 「口を開けてアーって言って」 |
原因 | 軟口蓋が挙上せず口蓋垂の偏位あり、咽頭壁にヒダの偏位あり(カーテン徴候) 延髄→舌咽N・迷走Nのどこかが片側性に障害され、障害側の軟口蓋は挙上せず、健側に偏位(口蓋垂も健側に偏位する) ※舌咽N障害の場合は舌後1/3の感覚も確認する 例)右側に偏位があれば、延髄→左舌咽N・左迷走Nのどこかに障害あり (支配筋は両側支配のため中枢の運動野→延髄までの病変はないと考えて良い) |
⑨舌運動→舌下N(12)
わかること | 舌偏位で舌下N←延髄←対側の運動野の病変の可能性 構音障害によりラ行(舌音)が言いにくい |
方法 | 「舌を前に突き出して、左右に動かして」 ※線維束性収縮は舌を出す前に確認する |
原因 | ①舌の偏位があり、舌萎縮・線維束性収縮がない 中枢性:運動野→延髄が片側性に障害され、障害部位と反対方向に偏位する 例)左側に偏位があれば、右脳の運動野→延髄のどこかに障害あり ②舌の偏位があり、舌萎縮・線維束性収縮がある 末梢性:延髄→舌下Nが片側性に障害され、障害部位と同方向に偏位する 例)左側に偏位があれば、延髄→左舌下Nのどこかに障害あり ③舌が出ない 運動野→延髄→舌下Nまでが両側性に障害され生じる |
⑩胸鎖乳突筋・僧帽筋→副N(11)
わかること | 抵抗が少なく左右差がある場合、副N(11)の障害の可能性 |
方法 | 「横を向いて、戻そうとするので力くらべ」 「肩をすくめて、押すので力くらべ」 |
原因 | 頸部損傷で末梢神経(副N)が障害され生じる、が稀な障害 (支配筋は両側支配のため中枢の運動野→延髄までの病変はないと考えて良い) |
運動系の診察
錐体路系&錐体外路(上肢)・小脳の診察
わかること | |
①不随意運動 | 「手を前に出してキープ」 錐体外路障害などで不随意運動が生じる 安静時振戦:大脳基底核に障害があると静止時に振戦が生じる |
②バレー徴候 | 「指を閉じて手のひらを上にして。目をつぶってキープ」 中枢性の筋力低下 |
③筋トーヌス | 「力を抜いて、私が腕を動かすよ(肘関節・手関節・回内回外)」 錐体外路障害:歯車現象や鉛管現象あり(固縮) 錐体路障害:折りたたみナイフ現象あり(痙縮) |
④鼻指鼻試験 | 企図振戦:目標に近づいた時急に震えが大きくなり小脳協調運動障害あり |
⑤回内・回外試験 | 反復拮抗運動障害:運動が遅い・回転軸が一定しない場合は小脳協調運動 障害あり |
⑥上肢MMT | 三角筋「手を横に広げてキープ」:C5→腋窩N 上腕二頭筋「力こぶ作って」:C5→筋皮N 上腕三頭筋「手をまっすぐ伸ばしてキープ」:C7→橈骨N 手根伸筋群「グーを上にしてキープ」:C6→橈骨N 手根屈筋群「グーを下にしてキープ」:C7→正中N・尺骨N |
起立・歩行の観察(位置覚・関節覚)
わかること | |
①歩行 | 「普通に歩いて」「つま先と踵をくっつけて歩いて」 錐体路障害:はさみ歩行、ぶん回し歩行 錐体外路障害:小刻み歩行 小脳障害・前庭N障害:酩酊様歩行 腓骨N麻痺:鶏歩 |
②Romberg試験 | 「足を揃えて、目を閉じて」 脊髄後索障害:転倒(暗闇で倒れる) |
錐体路系&錐体外路(下肢)・小脳の診察
わかること | |
①バレー徴候 ①ミンガツィーニ徴候 |
「うつ伏せで両膝を90°曲げてキープ」:中枢性の筋力低下 「仰向けで両膝を90°曲げてキープ」:同上 |
②膝踵試験 | 「踵を反対の足の膝にトントン蹴って、踵を脛の上で滑らせて」 小脳協調運動障害:足の揺れ、不器用な感じ |
③筋トーヌス | 「力を抜いて、私が足を動かすから」 錐体外路障害:歯車現象や鉛管現象あり(固縮) |
④下肢MMT | 腸腰筋「ももを挙げてキープ」:L1-2→大腿N 大腿四頭筋「脚を伸ばしてキープ」:L3-4→大腿N 大腿屈筋群「脚を曲げて(踵を下に引く)」:S1→坐骨N 前脛骨筋「つま先を挙げてキープ」:L4→深腓骨N 下腿三頭筋「つま先を下に伸ばして」:S1-2→脛骨N |
反射の診察(神経障害部位の診断)
反射の程度は個人差が大きく、健常者でも反射の亢進・低下がみられるため、左右差を見ることが大切!!
確認する神経 | 正常反射の反応(病的反射は病的反応) | |
下顎反射 | 三叉N | 咬筋収縮により軽く口が閉じる |
上腕二頭筋反射 | C5→筋皮N | 上腕二頭筋収縮により前腕が屈曲する |
上腕三頭筋反射 | C7→橈骨N | 上腕三頭筋収縮により前腕が伸展する |
橈骨反射 | C6→橈骨N | 腕橈骨筋収縮により肘関節が屈曲し、前腕が回外する |
膝蓋腱反射 | L3-4→大腿N | 大腿四頭筋収縮により下腿が伸展する |
アキレス腱反射 | S1-2→脛骨N | 下腿三頭筋収縮により足が屈曲する |
バビンスキー反射 | 錐体路 | 母趾は背屈し、その他の指は全て扇状に開く |
チャドック反射 | 錐体路 | 同上 |
ホフマン反射 | C8以上の錐体路障害 | 手関節を軽度背屈位とし、患者の中指の爪の部分を掌側へと弾いたときに母指が内転すれば病的反射陽性。健常者にも認められることがあるので、片側に確認された時には診断に有用。 |
トレムナー反射 | C8以上の錐体路 | 同上 |
口尖らし反射 | 橋以上の錐体路 | 上口唇の真上の正中部を軽く叩くと口を尖らす |
感覚系の診察
神経根障害ではデルマトームに一致した感覚障害がみられる。
わかること | |
触覚 | 「ティッシュで触って左右差、腕と脚の差はあるか?」 病巣:一次Nから後角→同レベルで交差して脊髄前索を上行して視床へ→対側の感覚野 病巣:脊髄後索を上行→延髄で交差して視床へ(内側毛帯)→対側の感覚野 触覚は2つの経路があるため |
温痛覚 | 「爪楊枝で突いて左右差、腕と脚の差はあるか?」 病巣:一次Nから後角→同レベルで交差して脊髄側索を上行して視床へ→対側の感覚野 |
振動覚 | 「(内果に当て)振動が止まったら教えて」 病巣:脊髄後索を上行→延髄で交差して視床へ(内側毛帯)→対側の感覚野 脊髄後索や糖尿病などの末梢神経障害で振動覚障害を生じる。 |
位置覚 | 「足元を見ずに、足の親指が上向きか下向きか教えて」 病巣:脊髄後索を上行→延髄で交差して視床へ(内側毛帯)→対側の感覚野 脊髄後索や糖尿病などの末梢神経障害で振動覚障害を生じる。 |
自律神経系の診察(問診)
問診 | |
起立性低血圧 | 「立ちくらみはないか?」 |
発汗障害 | 「汗のかき方に変化はないか?」 |
排尿障害 | 「おしっこが出にくいか?」:S2-4からの副交感神経障害 |
蓄尿障害 | 「おしっこの回数は?失禁は?」:交感神経障害 |
排便障害 | 「下痢・便秘はあるか?」 |
性機能障害 | 「勃起不全はあるか?」 |
髄膜刺激徴候の診察
項部硬直 | |
Kernig徴候 |
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