湿疹 eczema
乳児湿疹:生後数週間〜数ヶ月まで様々な原因で生じる湿疹の総称
湿疹の特徴 | ①掻痒が必発、②多様な湿疹が混在、③点状状態 =「痒くて表面がざらざら」 |
外的因子 | 薬剤、花粉、ハウスダスト、細菌、真菌、その他アレルゲン |
内的因子 | 健康状態、皮脂分泌状態、発汗状態、アレルギーの有無、アトピー素因 |
原因 | 外的因子が体内に侵入すると、それを排除しようとした際に炎症反応が表皮に現れたものが湿疹であると考えられている。つまり、「湿疹=表皮の炎症」 である。 湿疹が起こる機序は、①Ⅳ型アレルギー性などの免疫反応によるもの、②刺激物質・アレルゲンによるものがあり、そこに内的因子が複雑に絡み合って生じる。 |
治療 | ステロイド外用、抗アレルギー薬内服 |
【湿疹三角】
膿疱 | |||||||
小水疱 | 湿潤(びらん) | 色素沈着・脱失 | |||||
丘疹 | 結痂 | 苔癬化(表皮肥厚) | |||||
紅斑 | 落屑 | 治癒 |
接触皮膚炎(かぶれ)contact dermatitis
病態 | 原因物質と接触部位に限局して掻痒を伴う浮腫性紅斑を生じる疾患で、①一次刺激性、②Ⅳ型アレルギー性に分類される。「原因物質がわかる湿疹=○○による接触性皮膚炎」 ※ただし、非経皮的にアレルゲン取り込んだ場合、または、経皮的に取り込まれたアレルゲンが血行性に全身に散布された場合は全身にアレルギー反応を生じる。 |
①一次刺激性:ある濃度以上であれば初回接触でも湿疹が生じる ・主婦手湿疹(手荒れ):洗剤や水の接触の多い水仕事の人 ・おむつ皮膚炎:おむつ装着部位に一致する ・口舐め病:唾液や食べ物によって口周囲に生じる ・光刺激性接触皮膚炎 |
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②IV型アレルギー性:侵入した物質+ハプテンが抗原となり、初回接触では湿疹は生じず、2回目以降(数週〜数年後)に感作される少量でも湿疹が生じる。 ・金属、植物、食物、化粧品など様々な物質 ・光アレルギー性接触皮膚炎 |
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症状 | 接触部位の湿疹(掻痒が強い) |
検査 | 【アレルギー検査】 パッチテスト:一次刺激性では一定濃度を超えないと陽性にならないが、アレルギー性では濃度に関係なく陽性となる。 |
治療 | ①原因物質の除去 ②ステロイド外用:顔面ならロコイド軟膏、体幹ならアンテベート軟膏 ③抗アレルギー薬内服:アレグラ錠 |
アトピー性皮膚炎 AD:atopic dermatitis
疫学 | 乳児期と15〜30歳に好発、冬〜春に悪化 リスク因子:アトピー素因(家族歴・既往歴に①気管支喘息、②アレルギー性鼻炎・結膜炎、③アトピー性皮膚炎のいずれかを持つ、またはIgE抗体を産生しやすい体質のこと) |
病態 | アトピー素因+皮膚バリア機能↓(先天的フィラグリン遺伝子変異)により、異物が侵入してI型 or Ⅳ型アレルギーが生じやすい。その結果、強い掻痒のある左右対称性の慢性湿疹を生じ、増悪と寛解を6ヶ月以上繰り返す。ストレス・疲労、乾燥、汗などで悪化しやすい。大半は思春期前に治癒するが、一部持続し難治性となる。 【重症度4段階】 ①最重症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積の30%以上 ②重症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積の10〜30% ③中等症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積の10%以下 ④軽症:軽度の皮疹だけのもの |
症状 | 【乳幼児期(2ヶ月〜4歳)】 顔面・頭部(特に口周囲)に好発し、湿潤傾向。次第に体幹に拡大する。 【小児期】 体幹の皮膚が乾燥傾向、耳切れ、四肢関節屈側・殿部が苔癬化 【思春期以降】 基本的には小児期と症状は同じで、上半身に著名な苔癬化を認める。 ・ヘルトゲ徴候:眉毛の外側1/3が薄くなる ・デニーモーガン皺:下眼瞼の特徴的な皺 ・ポイキロデルマ様皮膚変化:頸部〜上胸部にかけてのさざ波様の色素沈着 【合併症】 ①眼:擦過による外傷性の白内障・裂孔原性網膜剝離、円錐角膜 ②皮膚:掻爬によるカポジ水痘様発疹症・伝染性膿痂疹・伝染性軟属腫 |
検査 | 【身体検査】 白色皮膚描記法(+) :感度は高いが、特異度は低い 【血液検査】 IgE↑(RIST)、皮疹増悪時に好酸球↑、特異的IgE抗体(RAST)↑、TARC↑(皮膚細胞が産生し、炎症の程度を反映する) 【病理】真皮浅層の好酸球浸潤 |
治療 | 【薬物療法】 保湿+ステロイド外用を、急性増悪時には1日2回、改善したら1日1回塗布する。 中等症以下の場合はステロイド外用の代わりにタクロリムス外用やJAK阻害薬外用を使用することがある。 掻痒に対しては抗ヒスタミン薬内服、重症例ではシクロスポリンやステロイドを内服する。 【治療抵抗性】 PUVA療法が行われることもある。 |
生活 | 増悪因子(例:汗、皮膚乾燥、体温上昇など)の検索+除去 |
【アトピー性皮膚炎の薬物療法の基本】 ※ス外=ステロイド外用
軽症 | 中等症 | 重症 | 最重症 | |
保湿剤 | ○ | ○ | ○ | ○ |
ス外:2歳未満 | Mild以下 | Mild以下 | Strong以下 | Strong以下 |
ス外:2〜12歳 | Mild以下 | Strong以下 | Very strong以下 | Very strong以下 |
ス外:13歳以上 | Mild以下 | Very strong以下 | Very strong以下 | Very strong以下 |
抗アレルギー薬 | ○ | ○ | ○ | ○ |
ステロイド内服 | × | × | × | ○ |
シクロスポリン内服 | × | × | × | ○(16歳以上) |
脂漏性皮膚炎(脂漏性湿疹) seborrheic dermatitis
疫学 | 乳児型:乳児期に好発し、幼児期に自然軽快する 成人型:思春期以降に好発し、慢性かつ再発性 |
病態 | 脂漏部位(頭・顔・腋下)や間擦部位(皮膚が擦れる場所)に生じる湿疹病変。 過剰分泌された皮脂中のTGは、常在真菌(マラセチア属)によって刺激性の脂肪酸などに分解される。その結果、表皮に炎症をきたしやすくなると考えられている。 フケとは、頭部の軽度な脂漏性皮膚炎のことである。 |
症状 | ①弱い掻痒 |
検査 | 【身体検査】 視診:脂漏部位の黄色調の鱗屑を伴う紅色局面 |
治療 | 弱いステロイド外用、思春期以降の鱗屑を伴う場合は抗真菌薬外用 |
生活 | 洗髪・洗体により脂漏部位を清潔に保つ |
貨幣状湿疹 nummular eczema
疫学 | 冬に好発。老人の乾燥肌に好発。 |
病態 | 四肢伸側・腰・殿部に散在する強い掻痒を伴った10円玉くらいの類円形の湿疹を生じる疾患。高齢者では皮脂欠乏性湿疹に続発することが多い。接触性皮膚炎やアトピー性皮膚炎に合併することがある。悪化で自家感作性皮膚炎に移行することも少なくない。 |
症状 | ①強い掻痒 |
検査 | 【身体検査】 視診:下腿伸側などにコイン型の湿疹。融合して局面を形成する部分もある。 |
治療 | 保湿、抗アレルギー薬内服、ステロイド外用 |
Vidal苔癬(慢性単純性苔癬)lichen Vidal
病態 | 慢性湿疹の一型。衣服による摩擦や金属アレルギーなどの刺激によって繰り返し掻痒することを長年掻くことにより苔癬化した湿疹。中年女性の項部・腋窩・陰部に好発。 |
症状 | ①強い掻痒 |
検査 | 【身体検査】 視診:強い苔癬化、色素沈着・色素脱失 |
治療 | ステロイド外用、抗アレルギー薬内服 |
自家感作性皮膚炎 autosensitization dermatitis
病態 | 貨幣状湿疹、接触性皮膚炎、うっ滞性皮膚炎などの原発巣が存在し、病変を掻いて血行性に抗原や細菌成分が散布され全身性の湿疹となる疾患。 |
症状 | ①強い掻痒 |
検査 | 【身体検査】 視診:四肢・体幹・顔面に対称性かつ播種性の湿疹 |
治療 | 原発巣の治療、抗アレルギー薬内服、ステロイド外用 |
うっ滞性皮膚炎 stasis dermatitis
病態 | 下肢静脈瘤など静脈還流異常により生じる下腿の皮膚炎。 長時間立位の人に好発。また、妊娠を契機に生じた静脈瘤に合併することがある。 |
症状 | ①下腿内側に掻痒を伴う浮腫性紅斑→ときに潰瘍化 ②ヘモジデリン沈着による色素沈着 |
検査 | 【身体検査】 視診:暗褐色調を呈した光沢のある紅斑 |
治療 | 湿疹部分にステロイド外用、高度な静脈瘤には硬化療法など |
予防 | 下肢挙上、弾性包帯、弾性ストッキング |
皮脂欠乏性湿疹 asteatotic eczema
病態 | 老化や過度の皮膚乾燥により角質保湿機能が低下し、そこに易刺激性に生じる湿疹病変。 乾燥する冬に多い、高齢者の下腿伸側に多い。 |
症状 | ①掻痒 |
検査 | 【身体検査】 視診:背部や下腿伸側の皮膚乾燥、掻爬痕 |
治療 | 保湿、抗アレルギー薬、ステロイド外用 |
予防 | ナイロンタオルで必要以上に皮膚を擦らない 熱いお風呂に入らない:掻痒↑ |
汗疱、異汗性湿疹
病態 | 汗疱:手掌・足底に限局して急に小水疱が多発したもの 異汗性湿疹:汗疱が湿疹化し、指側面や手背に拡大したもの |
症状 | 湿疹(通常は数週間で落屑となり治癒する) |
検査 | 【身体検査】 視診:手掌に多発する小水疱、湿疹 |
治療 | 汗疱:治療不要 異汗性湿疹:抗アレルギー薬、ステロイド外用 |
Wiskott-Aldrich症候群
免疫学の原発性免疫不全症を参照
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