呼吸器外科(肺・縦隔腫瘍、胸膜胸壁疾患、肺循環障害、形態異常)

呼吸器科

原発性肺癌 Primary lung cancer

疫学 男:女=3:1(腺癌は女性に多い)、60〜70歳代で好発
病態 多くは気管支上皮細胞に由来する悪性腫瘍で、扁平上皮細胞と小細胞癌は喫煙との因果関係が明らかになっている。 副腎などの臓器に転移しうる。
【局所浸潤による合併症】
①SVC症候群
②反回神経麻痺:嗄声
③横隔神経麻痺:呼吸苦
④パンコースト症候群:肩からの尺骨神経領域の上肢疼痛
⑤ホルネル症候群:縮瞳、眼球陥凹、眼瞼下垂、発汗低下
⑥心タンポナーデ:心嚢への浸潤
【肺癌の臨床病期】
0期:Tis(浸潤前癌)
Ⅰ期:N0(リンパ節転移なし)
Ⅱ期:N1(肺門リンパ節までの転移)
Ⅲ期:N2(縦隔リンパ節・鎖骨上窩リンパ節転移、腫瘍の胸壁・横隔膜・心膜浸潤)
Ⅳ期:M1(遠隔転移)
症状 ①胸痛:胸膜浸潤して胸膜刺激症状、胸壁浸潤して胸壁破壊
②慢性咳嗽
③血痰
合併:脳転移による脳浮腫、骨転移による病的骨折
検査 【身体検査】 視診:ばち指 (爪の基部と爪の付け根の皮膚とのなす角が180°以上)
【検査の流れ】
①X線・CTでスクリーニング
②中心性は、3日連続の喀痰細胞診でスクリーニング
③気管支鏡下生検(TBB)or CTガイド下生検し、腫瘍同定できない場合は擦過細胞診を行う
④末梢性は胸腔鏡で生検(PCLB)
⑤病気診断のため、FDG-PET、胸部造影CT、脳MRI 
⑥腫瘍マーカーは特異度が高くなく、治療効果判定や再発予知に測定される
  腺癌(約60%) 扁平上皮癌(約25%) 小細胞癌(約15%)
好発部位 末梢の気管支上皮細胞 中枢の気道(約80%) 比較的中枢の気道
危険因子 高齢 喫煙 喫煙
細胞診の病理像 ぶどうの房状細胞塊
ドライバー遺伝子陽性が多い
癌真珠(玉ねぎ状に発育するため)、Papanicolaou染色でオレンジ色 N/C比が高い小型細胞が散在、Papanicolaou染色で青黒い核が目立つ
特異的症状 症状に乏しい
①胸膜陥入で胸痛
進行すると胸膜浸潤し胸水貯留。
咳嗽、血痰
PTHrP産生:高Ca血症となり食欲不振・吐き気・意識障害
咳嗽、血痰
Lambert -Eaton筋無力症異所性ACTH産生腫瘍 SIADH
hCG産生:女性化乳房
検査 胸膜陥入
胸膜陥凹
スピキュラ形成
空洞形成中心壊死
ノッチ(切痕)像
無気肺:腫瘍が塞栓
肺門部リンパ節腫脹
マーカー CEA、SLX SCC、CYFRA NSE、proGRP
免疫染色 TTF-1 p40 クロモグラニンAなど
治療 病変が片肺は手術
その他ケモラジ
病変が片肺は手術
その他ケモラジ
ケモラジのみ
予後   比較的不良 不良

【肺癌の治療方針】

手術 Ⅱ期:N1まで
病変が片肺 or 肺門リンパ節病変まで→肺葉単位で切除肺門縦隔リンパ節郭清
※肺内リンパ節→肺門リンパ節→縦隔リンパ節の順に転移する
レーザー治療(光線力学的療法:PDT):病巣が照射可能な部位、扁平上皮癌
ケモラジ 小細胞肺癌、手術不能の非小細胞肺癌、縦隔リンパ節・気管分岐部リンパ節病変 ただし、病変が多数あり+体力があり&PSが2以下の場合はケモのみ
分子標的治療 ドライバー遺伝子変異のある非小細胞肺癌(主に肺腺癌)
EGFR(50%)、②KRAS(10%)、③ALK(5%)、④MET(3%)、⑤RET(2%)、⑥BRAF(2%)、⑦ROS(2%)
ドライバー遺伝子変異のない非小細胞肺癌
免疫チェックポイント阻害薬(PD-1・PD-L1阻害薬)
術後
合併症
無気肺、肺水腫、乳び胸、間質性肺炎の急性増悪、膿胸、肺動脈血栓塞栓症、術後エアリーク(皮下気腫・肺虚脱)、残存肺の捻転(中葉に起こりやすい)

Pancoast症候群(肺尖部腫瘍による症候群)

病態 肺尖部の腫瘍が胸郭外に浸潤し上腕神経叢や交感神経節などを圧排する。
扁平上皮癌が最多。最初頸椎症を疑い、整形外科に行く人が多い。
症状 腕神経叢圧排:肩部〜前腕尺側の電撃痛・知覚障害・運動麻痺・筋萎縮
②頸部交感神経節圧排(Horner症候群):眼瞼下垂・縮瞳、顔面の発汗減少
③進行して肋間神経圧排:前胸部痛、右反回神経麻痺による嗄声 (左反回神経麻痺による嗄声は大動脈下リンパ節に転移した場合)

上大静脈症候群(SVC症候群)Superior vena cava Syndrome

疫学 SVCの約90%が原発性肺癌によるもの(小細胞癌が最多)。
その他に、悪性リンパ腫、胸部大動脈瘤、縦隔腫瘍、胸腺腫が原因となる。
病態 側の縦隔リンパ節腫脹などで上大静脈や腕頭Vが圧迫され、静脈還流が障害され、頭頸部や上肢に静脈血のうっ滞症状を生じる病態。
症状 顔面や上肢の浮腫
②頸静脈怒張:
③前胸部に下行性の静脈怒張・下行性の表在腹壁静脈瘤をきたす
検査 【画像検査】
造影CT:上大静脈の閉塞、側副血行路(奇静脈)の発達
治療 原疾患治療+ステント留置、バイパス手術

生涯喫煙量の指数

Brinkman指数

概念 生涯喫煙量を定量化した指数であり、喫煙が原因の疾患のリスク評価に用いる。
指数 400以上で肺癌が出現しはじめ、 600以上で肺癌高危険群、 1200以上で喉頭癌高危険群とみなされる。 ※200以上であることが禁煙治療への保険適用の条件となっている(35歳未満は指数を問わず適用となる)

pack year

概念 1日の喫煙箱数(1日のタバコ数/20本)×喫煙年数
指数 20pack-years約20%、 60pack-years以上の約70%がCOPDの発症率

転移性肺癌

病態 最も多いのは血行性転移で全ての悪性腫瘍が原発となる。 また、胃癌・大腸癌・乳癌・前立腺癌・原発性肺癌などの腺癌は癌性リンパ管症をきたすことがある。これは血行性転移した腫瘍細胞が近傍リンパ管内に浸潤し、管内で増殖してリンパ流を堰き止める。その結果、リンパ管内圧の上昇によって小葉間隔壁が肥厚し(Kerley線形成)、水分が間質に移行する(間質浮腫)+肺胞にも水分が移行する(肺胞性肺水腫)。
【手術適応基準】
①PS良好
②原発巣が制御されている
③全ての肺転移巣が切除可能である
④肺以外の転移巣がない、もしくは制御可能
⑤十分な残存肺機能がある
症状 原則無症状、乾性咳嗽をきたすことがある。癌性リンパ管炎では進行性の息切れ。
検査 【CT】末梢肺野に大小不同の多発する境界明瞭な円形陰影、癌性リンパ管症ではびまん性網状陰影+小葉間隔壁肥厚(Kerley線)
治療 基本的には化学療法

縦隔疾患

縦隔腫瘍

  好発する縦隔腫瘍 鑑別方法
縦隔 縦隔内甲状腺腫 甲状腺から下方に伸びていることがほとんど
縦隔 胸腺腫(最多)
胚細胞腫瘍(90%は成熟奇形腫)
悪性リンパ腫
胸腺腫:20%は重症筋無力症を合併→抗Ach受容体抗体測定
胚細胞腫瘍:①卵黄嚢腫でAFP↑、絨毛癌でhCG↑、③奇形腫の場合は石灰化確認、また穿孔(穿破)を起こしやすい
縦隔 悪性リンパ腫
心膜嚢腫
気管支嚢胞
悪性リンパ腫:可溶性IL-2やLDH↑
心膜嚢腫:CTで均一な低濃度の腫瘤
縦隔 神経原性腫瘍 交感神経幹由来が多く、Horner症候群をきたす

胸腺腫

疫学 40歳以上に好発
病態 前縦隔に好発する腫瘍であり、浸潤により上大静脈症候群をきたす。
病理組織学的には良性だが、臨床的には悪性腫瘍として扱われる
症状 無症状(ときに胸部圧迫感、呼吸困難、咳嗽など)
【合併症】
重症筋無力症(約40%)、赤芽球癆(約5%)、低γグロブリン血症(約1%)など
検査 【画像検査】
前縦隔に腫瘤性病変
治療 外科的切除:胸腺腫摘出(重症筋無力症は改善する可能性があるが、赤芽球癆と低γグロブリン血症の改善効果は期待できない)、遠隔転移例では化学療法
※摘出術の合併症に横隔神経麻痺があり、呼吸困難を生じる

急性縦隔炎

病態 縦隔に生じる炎症。
原因①降下性壊死性縦隔炎:隔炎頭頸部領域の感染(う歯や咽頭炎)を契機に頸部膿瘍から縦隔に広がる。死亡率が高く重症化しやすいため、緊急に治療を開始。
原因②食道・気管損傷:外科手術、外傷、食道穿孔など
症状 胸痛
検査 【画像検査】
X線:縦隔の開大
CT:縦隔内の膿貯留
治療 縦隔ドレナージ+抗菌薬(嫌気性菌)

胸膜・胸壁疾患

胸膜炎 pleuritis

病態 胸膜に炎症が起こり、臓側胸膜と壁側胸膜との間に滲出液が貯留する状態。
ウイルスや細菌性の肺炎で胸膜が刺激されて起こることがほとんどであるが、SLEなど自己免疫疾患や癌の胸膜転移が刺激となることもある。
症状 ①深吸気時に増強する胸痛
②発熱
③乾性咳嗽
検査 【身体検査】
聴診:胸膜摩擦音
【画像検査】
X線:CP角の鈍化(胸水貯留)
【生検】
胸腔穿刺:細胞診、細菌培養、胸水採取
治療 原疾患治療。胸水多量の場合は胸腔ドレナージ

(悪性)胸膜中皮腫

病態 胸膜原発の主要であり、多くはアスベストが関与する。
予後不良であり、50%が1年以内に死亡する。
症状 ①労作時呼吸困難
②胸痛
③咳嗽
検査 【生検】
①胸腔鏡下胸膜生検カルレチニン染色(+)、胸膜中皮腫は上皮型が最も多い
②CTガイド下生検:針生検では①に比べて検体量が不十分な場合がある
③胸腔穿刺:胸水中にヒアルロン酸↑、LDH↑を認める
【画像検査】
PET-CT:胸膜全周性にFDG集積
治療 胸膜肺全摘

気胸 Pneumothorax

疫学 特発性気胸:20歳前後の背の高い痩せ型の男性に多い
続発性気胸:高齢者の喫煙によるCOPDで起きた気腫性変化(ブラ)の破綻が多い
※女性の気胸は極めてまれで、発見したらLAMか月経随伴性気胸を疑うこと
病態 壁側胸膜(外気性)または臓側胸膜(内気性)が破れて胸腔内に空気が貯留し、肺が虚脱した結果、呼吸運動に障害をきたす疾患。胸腔内に血液を含む場合は血気胸という。
緊張性気胸の場合>
破綻部位が偶然弁状になり、吸気時に胸腔に空気が入るものの、呼気時には空気が出ず、胸腔内に空気が貯留してさらに陽圧になり、肺静脈が圧迫されて静脈が右心系に戻れなくなり閉塞性ショックを伴う。
【自然気胸=内気性】
①特発性:肺囊胞・ブラ・ブレブの破綻
②続発性:COPD、LAM、肺LCH、肺の子宮内膜症=月経随伴性気胸、肺癌、肺結核、間質性肺炎、Marfan症候群、膠原病など
ブラ:肺胞が破壊された嚢胞で、肺尖部に好発する(肺実質内気嚢)
ブレブ:肺胞が破れて胸膜の間にお餅が広がるようにできた嚢胞(気嚢)
【外傷性・医原性気胸】
①外傷的:肋骨骨折
②医原的:鎖骨下静脈穿刺、人工呼吸器の圧過剰、術後
※手術などで壁側胸膜が切られている場合は皮下気腫を生じる場合がある。
症状 突然の胸痛(患側)呼吸困難(深吸気時に痛みが増強)
②乾性咳嗽
検査 【身体検査】
聴診:患側肺の肺胞呼吸音減弱(呼吸音の左右差あり)
打診:患側肺の鼓音(血気胸は濁音)
【画像検査】
胸部X線:血管影欠如した肺野の透過性亢進+縮んだ肺、縦隔健側偏位血気胸がある場合は胸腔内に鏡面像(niveau)がある(出血性ショックとなるため注意)
治療 【緊急時】
第2肋間直上と鎖骨中線の交点を穿刺し、脱気する。PEEPや陽圧換気は禁忌
【軽度】
座位で肺尖部が鎖骨より上にある場合は安静で自然回復する
【中〜高度】
バンザイをしてもらい皮膚と壁側胸膜を局麻した後、第5肋間直上と前腋窩線の交点(乳首横くらい)の側胸部から胸腔ドレナージ挿入し、ドレーン先端は肺尖部に留置し、反対側はドレーンバッグに繋ぐ(第7肋間以下から挿入すると横隔膜・肝損傷の危険がある)。臓側胸膜の破綻部位が修復すると空気が出なくなり、胸腔の空気は血中に吸収され陰圧に戻る。
【再発例、気漏の持続
胸腔鏡下肺部分切除術、ブラ縫縮術(VATS)
予防 禁煙

肺循環障害

肺塞栓症(肺梗塞、肺血栓塞栓症) PE

病態 塞栓が肺動脈を閉塞した状態を肺塞栓症といい、その末梢領域が出血性壊死をきたした状態を肺梗塞という。特に、下肢・骨盤内の血栓が肺動脈を閉塞するものを肺血栓塞栓症という。
【原因】
深部静脈血栓症(DVT)が最多
症状 ①突然の呼吸困難
②胸膜性胸痛:深吸気時に増悪する
検査 【身体検査】
視診:頸静脈怒張、聴診:Ⅱp亢進
【①動脈血液ガス検査】
PaO2↓、過換気によりPaCO2↓呼吸性アルカローシス
【②血液検査】
FDP↑D-ダイマー↑、LD↑・間接Bil↑・AST正常(血液学的3徴)
【③画像検査】
心エコー:右室拡大+心尖部の壁運動が保たれたまま右室自由壁運動障害(McConnell徴候)
胸部造影CT:肺動脈の拡張、肺動脈内血栓(確定診断)
肺換気・血流シンチグラフィ:現在では造影CT検査が多い
治療 ①O2投与+ヘパリン投与(重症例にはt-PAを行うこともある)
②肺動脈血栓摘除術(①が無効の場合)
③再発予防に下大静脈フィルター留置(抗凝固療法抵抗性・禁忌例の場合)
予防 下肢の弾性ストッキング装着など

肺高血圧症

肺動脈圧の上昇をきたす疾患の総称。平均肺動脈圧が25以上となる。

第1群:肺動脈性肺高血圧症 ①特発性(特発性肺動脈性肺高血圧症:IPAH)
②遺伝性(先天性心疾患に伴う肺高血圧など)
③薬物性
④疾患随伴性(MCTDSScSLEなどの膠原病、AIDS、先天性短絡性疾患)
第2群 左心性心疾患に伴う肺高血圧症(肺動脈楔入圧が↑)
第3群 肺疾患に伴う肺高血圧症
第4群 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(肺血栓塞栓症などが原因)
第5群 詳細不明の肺高血圧症

特発性肺動脈性肺高血圧症 IPAH

疫学 20~40歳代の女性に好発
病態 原因不明の肺高血圧症。左心不全はない。
症状 生下時以降しばらくは症状がなく、20歳以降に、
①右心不全症状:労作時呼吸困難、頸静脈怒張、浮腫など
検査 【身体検査】
聴診:Ⅱp亢進、Graham-Steell雑音
【心電図】
右軸偏位、Ⅱ誘導で肺性P波、右室肥大(V1でR波増高、V1〜V3のT波陰転化(Strain pattern)、V5・V6で深いS波)
【画像検査】
①心エコー:右心負荷所見(右心系の拡大)
②胸部X線:左第2弓の突出、中枢側肺A拡張+末梢肺Aの急激な狭小化
③右心カテ:肺動脈圧↑、肺動脈楔入圧は正常(左心不全ないため)、肺血管抵抗↑
治療 【薬物療法】
肺血管拡張薬(PGI2製剤、エンドセリン受容体拮抗薬、PDE5阻害薬、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬)

肺動静脈瘻

病態 肺Aと肺Vが右→左シャントを形成し、換気血流不均衡を生じる疾患。
多くは先天性で、一部はRendu-Osler-Weber病に合併するため、家族歴を確認する。
【Rendu-Osler-Weber病(オスラー病)】
常染色体優性遺伝の毛細血管拡張症で、喀血以外にも反復性の鼻出血消化管出血など全身出血傾向を示す。舌尖の出血斑が特徴的。
症状 無症状(半数)
瘻破裂で喀血・血痰
【右左短絡による合併症】
短絡量が多い場合は低酸素血症、脳梗塞(低O2血症から多血症→脳梗塞)、脳膿瘍(肺の毛細血管でトラップされなかった異物が脳へ)など
検査 【身体所見】
視診:チアノーゼ、ばち指
聴診:病変部位に一致する連続性血管雑音(吸気時に増強)
【画像検査】
X線、CT:境界明瞭な結節影 or 円形〜勾玉状陰影
肺動脈造影、造影CT、3D-CT:腫瘤に連続する血管構造(確定診断)
【針生検、TBLB】
出血を起こすため禁忌
治療 経カテーテル流入動脈塞栓術、肺部分切除術など

急性呼吸切迫症候群 ARDS:Acute Repiratory Distress syndrome

病理 DAD(びまん性肺胞障害)
病態 【急性期:炎症】
先行する基礎疾患(敗血症、肺炎、急性膵炎、高濃度酸素吸引)・胸部外傷から1週間以内に発症した低酸素血症。先行する疾患によって生じた多量のサイトカインが好中球を活性化させ、肺血管に遊走した好中球が肺胞隔壁の血管透過性を亢進させた結果、非心原性肺水腫となる。※原因が心不全、腎不全、血管内水分過剰のみでは説明できないこと!
【慢性期:器質化・線維化】
血管透過性に伴い肺胞上皮に硝子膜が形成され、1週間後には硝子膜上に線維芽細胞が増殖し、線維化が進行する。
症状 ①急速に息切れが進行(肺水腫によりサーファクタントが希釈され肺胞が虚脱する)
②バブル状の痰(血性の場合もあり)
検査 【身体検査】
視診:チアノーゼ(低O2血症)
聴診:coarse crackles→fine crackles
打診:濁音
【呼吸検査】
PaO2↓、P/F値200以下(300以下になったら注意)
【画像検査】
胸部X線:両側びまん性すりガラス影(全肺野が真っ白)
CT:初期は斑状にすりガラス影→1週間後びまん性すりガラス影+牽引性気管支拡張像(線維化のため) 
治療 【O2投与】まずはNPPV(肺胞虚脱のため陽圧換気)→不十分な場合は人工換気 人工呼吸器の設定はHigh PEEP+Low tidal(肺胞虚脱のためPEEP↑+線維化促進を防止するため換気量↓し代償的に呼吸回数↑)
【輸液】通常輸液量の60〜70%(肺水腫のため)
【薬物療法】好中球エラスターゼ阻害薬(シベレスタット)

肺・気管支の形態異常

気管支拡張症

病態 気管支の慢性炎症(拡張した気管支は細菌が溜まりやすい)を伴う不可逆性の拡張を呈する疾患。
【先天性】
嚢胞性線維症、Kartagener症候群(慢性副鼻腔炎+内臓逆転)など
【後天性】
特発性、続発性(肺結核、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、びまん性汎細気管支炎など)
症状 ①数年来の湿性咳嗽+多量の膿性痰〜血痰(拡張して血管破綻)
②起床時に咳嗽(就寝中に分泌物が貯留するため)
【合併症】
慢性副鼻腔炎が多い
検査 【身体検査】
聴診:両側下肺野に水泡音(coarse crackles)
【画像検査】
CT:嚢状の気管支拡張像+気管支壁肥厚
治療 ①14員環マクロライド(エリスロマイシン)少量長期投与
②排痰:去痰薬、体位ドレナージ、背中のtapping

肺分画症

病態 先天的に肺の一部(左下肺野が多い)が主に下行大動脈から分岐した異常動脈によって栄養される疾患。
症状 無症状。肺炎をきたす場合がある。
検査 【血管造影】大動脈造影で異常動脈確認
治療 栄養される分画を切除(肺炎を起こすため)

肺嚢胞症

線毛機能不全症候群(カルタゲナー症候群)

病態 先天的な異常によって線毛運動が障害され呼吸器系の易感染性を呈する疾患。 内臓逆位・気管支拡張・慢性副鼻腔炎が3徴、不妊や網膜色素変性症を伴うこともある。
症状 気管支拡張症症状
検査  
治療 対症療法

その他の肺疾患

LAMとLCH(どちらも稀な疾患)

  リンパ脈管筋腫症(ラムちゃん) LAM:Lymphangioleiomyomatosis 肺ランゲルハンス組織球症 肺LCH:Langerhans cell histiocytosis
疫学 20〜40代の女性に好発 20〜40代の喫煙者に好発
病態 平滑筋様の異常細胞(LAM細胞)が肺など様々な臓器で緩徐に増殖する。肺では肺胞を破壊して嚢胞を形成する閉塞性肺疾患を起こす。
【合併】
気胸、腎血管筋脂肪腫、乳び胸、結節性硬化症
全身のランゲルハンス細胞が腫瘍性増殖し、肺に嚢胞を形成する疾患。
【合併】
嚢胞破綻による気胸、尿崩症
症状 閉塞性肺疾患 乾性咳嗽、呼吸困難
検査 【病理】LAM細胞の増殖を確認(確定)  
治療 mTOR阻害薬、HOT、進行例は肺移植 禁煙

肺胞蛋白症(稀な疾患)

病態 抗GM-CSF抗体産生によりMφ機能が低下し、サーファクタントを処理できず、肺胞内にサーファクタントが貯留する疾患。
自覚 労作時呼吸困難、慢性の乾性咳嗽
検査 【身体検査】
聴診:fine crackles(間質性肺炎)
【画像検査】
CT:Crazy paving appearance(メロンの皮様)→小葉間隔壁が肥厚して周囲のすりガラス陰影と合わせて形作られる
【BALF】
ミルク状の洗浄液
【呼吸検査】
VC低下、DLco低下
治療 軽症は経過観察、重症は全身麻酔下での肺胞洗浄(ステロイドは無効)

 

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