解剖
気道
気道は鼻腔・口腔〜終末細気管支を指す。T4〜5は胸骨角の高さである。
【肺血管の特徴(通常の血管と反対の反応)】
肺血管収縮 | 肺胞PaO2↓、またはPaCO2↑(呼吸不全で肺高血圧となる一因) |
肺血管拡張 | 肺胞PaO2↑、またはPaCO2↓ |
【気道の構成細胞】
上気道には常在菌が生息しているが、健常者の下気道は無菌である。
軟骨 | 杯細胞 | 構成細胞 | ||
上気道 | 鼻腔 | ○ | 多列円柱線毛上皮 | |
咽頭 | ○ | 多列円柱線毛上皮 | ||
喉頭 | ○ | ○ | 多列円柱線毛上皮 | |
下気道 | 気管 | ○ | ○ | 多列円柱線毛上皮、気管支平滑筋 |
気管支 | ○ | ○ | 多列円柱線毛上皮、気管支平滑筋 | |
細気管支 | 単層円柱線毛上皮、クララ細胞(粘液分泌細胞) | |||
終末細気管支 | 単層円柱線毛上皮、クララ細胞 (3~5本の終末細気管支に支配される領域を二次小葉といい、小葉間隔壁で囲まれている。) |
|||
呼吸細気管支 | 単層立法上皮→線毛ないため異物排除しにくい (1本の呼吸細気管支に支配される領域を一次小葉といい、肺の機能的最小単位である。) |
|||
肺胞管 | (ガス交換行われる) | |||
肺胞 | 気管は23回枝分かれして肺胞に至る。 95%を占めるⅠ型肺胞上皮細胞(ガス交換) 5%を占めるⅡ型肺胞上皮細胞(サーファクタント産生) ※Ⅰ型肺胞上皮細胞はⅡ型肺胞上皮細胞から分化する 肺胞マクロファージ 肺実質:肺胞上皮+肺胞腔 肺間質:肺胞隔壁を含む肺胞+肺胞の間の部分 |
【肺小葉(二次小葉)の構造】
二次小葉は線毛上皮細胞が乏しく炎症が生じやすい。また、二次小葉中心の炎症は感染症、小葉間隔壁の炎症は非感染性を疑う⇨Kerley’s線
肺区域(区域気管支に支配される領域)
右肺(10区画) | 左肺(8区画) | |||
前方 | 後方 | 前方 | 後方 | |
上葉 | S3 | S1(肺尖)、S2 | S3 | S1+2 |
中葉舌区 =ブラジャーの位置 |
S4(外)、S5(内) | S4(上)、 S5(下) |
||
下葉 | S7(内)、S8(中) | S6、S9、S10 | S8(S7なし!) | S6、S9、S10 |
【胸膜と胸膜液】
胸膜液は胸腔内側の扁平上皮(=中皮)が産生。胸腔内は胸膜液に満たされて陰圧になっている。肺の縮む力(弾性)と胸腔内の陰圧による引っ張る力はちょうど安静呼気時に釣り合う。
横隔膜の各裂孔と通るもの
食道裂孔 | 食道と左右の迷走神経(肺門の後を走行:食道は後ろにあるから) |
大動脈裂孔 | 大動脈とそれにまつわる交感神経叢と胸管 |
大静脈孔 | 下大静脈と右の横隔神経の小枝(肺門の前を走行) |
縦隔
縦隔:左右肺、胸椎、胸骨に囲まれた部分
生理
呼吸の調節
中枢部位 | 調節の詳細 | |
無意識の調節 | 延髄 | 不随意的な呼吸中枢は延髄に存在し、呼吸筋を調節。 延髄の圧迫性病変でオンディーヌの呪いがかかり眠ると死ぬ。 |
行動性調節 | 大脳皮質 | 随意的な呼吸運動刺激により橋を介して呼吸が亢進。 |
化学的調節 | 延髄表面の化学受容器 | 中枢化学受容器がCO2分圧の上昇を感知し、延髄呼吸中枢を亢進(約90%)し、呼吸筋運動を促進。 |
大動脈小体 頸動脈小体 |
末梢化学受容器がO2分圧の低下を感知し、迷走神経や舌咽神経を介して延髄呼吸中枢を亢進(約10%)し、呼吸筋運動を促進。 | |
末梢性調節 | 気管支平滑筋の伸展受容器 | 肺の過膨張すると伸展受容器が興奮し、迷走神経を介して延髄の吸息ニューロンを抑制(Hering-Breuer反射)。 |
症候
呼吸不全(=低酸素血症)
血液ガスを参照。
DLCO:ガス拡散能検査(COを吸って拡散能を検査)
COは拡散能に劣っているため(肺拡散能:CO2>O2>CO)、COを吸って肺胞上皮→間質→毛細血管と移動すれば親和性の高いCO-Hbを形成し、CO-Hbを検査すれば肺拡散能がわかる。この検査によってスパイロメトリーではわからない早期の病変を見つけることができるという利点がある。(DLCO基準値:約25mL/min/Torr)
DLが低下すると呼吸不全(低酸素血症)があるとわかる。
DLCO低下させる要因=Ⅰ型呼吸不全 | DLCO低下させる疾患 |
ガス交換面積の低下 | COPD(例外的にⅡ型呼吸不全) |
O2の拡散障害(CO2は問題ない) | 間質性肺炎、肺水腫、サルコイドーシス |
毛細血管血流の低下(労作時に顕著になる) | 肺血栓塞栓症 |
胸水
胸腔内に過剰に胸膜液が貯留する状態。胸部X線でCP角が鈍となる。上葉と中葉の間の葉間胸膜に胸水が入りこむと毛髪線(Minor Fissure)が見える。
原因 | 疾患 | 胸水の性状 |
毛細血管側の静水圧の上昇 | うっ血性心不全、肺塞栓 | 漏出液(水分のみ漏れ出る) |
毛細血管側の膠質浸透圧の低下 | ネフローゼ症候群、肝硬変 | 漏出液(水分のみ漏れ出る) |
毛細血管の血管透過性亢進 | ①細菌性(好中球↑) ②結核(リンパ球↑ADA↑) ③悪性腫瘍(細胞診で癌) ④胸膜中皮腫(ヒアルロン酸↑) |
滲出液(蛋白やLDHが滲み出るため色は濁る) |
【胸水の分類】
治療法 | |
漏出性(80%) | 利尿して血漿浸透圧を戻す。 |
滲出性(20%) | 原疾患の治療+ドレナージする。治療で胸腔穿刺をする場合、胸水はゆっくり吸引する!(再膨張性肺水腫予防のため) 【Lightの基準】 ①胸水蛋白/血清蛋白>0.5、②胸水LD/血清LD>0.6、③胸水LD>血清基準値上限の2/3 ①〜③のうち1つでも該当すれば滲出性胸水 |
乳び胸(白濁した胸水)
病態 | 胸管が損傷し、乳糜=リンパ液が胸腔内に漏出する病態。 ①外傷性:手術合併症(食道癌根治手術、Bochdalek孔ヘルニア根治手術、動脈管開存症根治手術、左上肺葉切除後など)、事故など ②非外傷性:腫瘍(悪性リンパ腫など)、リンパ脈管筋腫症(LAM)など |
症状 | ①胸水の量が増えると、胸部圧迫感や労作時呼吸困難 ②胸腔ドレーンから白濁した排液が出現 |
検査 | 【胸水穿刺】胸水は乳白色混濁、胸腔中に食事由来のカイロミクロン↑(TG↑) |
治療 | ①絶食し、完全静脈栄養(脂質を絶ち、中鎖脂肪酸食の摂取する) ②胸腔内貯留している場合:胸腔ドレナージ ③改善しない場合は胸管結紮・リンパ管結紮 |
肺水腫(再膨張性肺水腫を含む)
病態 | 血管から漏出した過剰な水分が肺間質・肺胞内に貯留した病態。 原因としては心原性が最多。 【再膨張性肺水腫】 胸水、気胸などによる虚脱肺の急速伸展に伴って生じる肺水腫。典型的には肺の虚脱が3日以上続き、再膨張させた後1時間以内に起こる血管透過性亢進型の肺水腫。 |
症状 | 呼吸困難など(詳細は原疾患参照) |
検査 | 【身体検査】 聴診:水泡音 【画像検査】 X線:心陰影拡大、バタフライシャドウ、CP角の鈍化など |
治療 | 人工呼吸器管理:O2投与、人工呼吸によるPEEPを加えた陽圧呼吸(CPPV) 利尿薬:フロセミドなど |
無気肺 Atelectasis(画像診断名)
病態 | 肺の含気量が減少したために肺が縮んだ病態。以下4つの機序からなる。 ①閉塞性:気道の閉塞部位(終末細気管支よりも中枢)より末梢の含気量が減少。 ②圧排性:胸水、気胸、肺癌などの胸郭内占拠病変によって胸腔内陰圧<<肺の弾性力となり、胸腔内陰圧がかかりにくい部分から含気量が減少。 ③癒着性:新生児呼吸窮迫症候群などでサーファクタントが減少すると肺胞が膨らまず含気量が減少。 ④瘢痕性:肺線維症で肺胞が膨らまず含気量が減少。 |
症状 | 特有の自覚症状なし 【聴診】肺胞呼吸音減弱 |
検査 | 【画像検査】 胸部X線:透過性低下+肺容積減少により気管支偏位&横隔膜挙上 健常な肺組織は代償的に過膨張となる。CTでは軟部組織と同じ白さで写る。 気管支鏡検査:閉塞する原因を目視し、腫瘍ならば生検により確定診断が可能 |
治療 | 特別な治療はなく原因疾患の治療を行う |
チアノーゼ
病態 | 毛細血管内の還元型Hbが5g/dL以上で生じる病態。RBC数の影響を大きく受けるため貧血、CO中毒、シアン中毒ではチアノーゼは起こしにくく、多血症で生じやすい。 【中心性チアノーゼ】 心・大血管の異常(右→左シャント、Eisenmenger症候群)、肺の異常(低O2血症来たす疾患)、MetHb血症などでHbがO2と結合できず、動脈血中に還元型Hbが多い状態。PaO2やSaO2低下している。 【末梢性チアノーゼ】 寒冷や心拍出量低下で末梢循環不全(細動脈の攣縮)が起こると、組織に限局して酸素不足が起こり還元型Hbが多い状態となる。PaO2もSaO2も正常。 |
症状 | 中心性チアノーゼ:体の温かい部分(口唇、舌など)が紫色(土気色)を呈する 末梢性チアノーゼ:体の冷たい部分(爪床、耳介など)が紫色(土気色)を呈する |
検査 | 血中還元型Hb濃度測定 |
検査
呼吸機能検査
【スパイロメトリー】
測定器をスパイロメータ、描かれた曲線をスパイログラムという。
意義 | 正常値 | |
TV(1回換気量) | 安静時呼吸量(ガス交換してない死腔0.15L含む) | 0.5L |
IRV(予備吸気量) | 安静時の最大吸気量からさらに頑張って吸気した量 | 2.0L |
IC(最大吸気量) | TV+IRV | 2.5L |
ERV(予備呼気量) | 安静時の最大呼吸量から頑張って呼気した量 | 1.5L |
RV(残気量) | 息を吐き切っても肺に残る空気の量(測定不能) | 1.5L |
FRC(機能的残気量) | ERV+RV(測定不能)、全肺気量の約50% | 3.0L |
VC(肺活量) | TV+IRV+ERV(息を最大限吸って最大限吐き出した量) | 4〜5L |
TLC(全肺気量) | VC+RV(肺にある空気量) | 6.0L |
FEV1%(1秒率) | 1秒量(1秒で吐いた肺気量)/努力肺活量(一気に吐く) ※健常者では肺活量=努力肺活量となる! |
70%以上 |
%VC(予測値と比較) | 実測肺活量/性別・年齢・身長より予測した肺活量 %VC=実測肺活量÷予測肺活量×100 ※肺活量は性別・年齢・身長で異なるため%VCが必要! |
80%以上 |
【拘束性肺疾患と閉塞性肺疾患】
詳細 | 疾患例 | |
拘束性肺疾患 | 肺や胸郭が広がらず肺活量が低下する疾患。%VCは80%未満 | 間質性肺炎、胸腔内病変(気胸、胸水貯留など)、横隔膜の運動制限 |
閉塞性肺疾患 | 空気をスムーズに吐き出せず1秒率が低下する疾患。FEV%は70%未満、残気量↑ | 喘息、COPD、DPB ※加齢でも残気量↑ |
上気道〜気管狭窄 | 肺活量不変、flow-volume curveピーク平坦 |
【フローボリューム曲線】
横軸に努力性呼気時の肺活量、縦軸に呼気の速さをとり、グラフ化したもの。曲線の後半部分は被験者の換気特性を評価できる。
拘束性肺疾患 | 曲線の裾野が狭くなる。これは肺や胸郭が広がらず肺活量が低下するため。 |
閉塞性肺疾患 | 曲線の後半部分が凹む。これは努力肺活量の50%または25%時点の流速が低下するため。感度が高いので早期病変の把握に適している。 |
上気道〜気管狭窄 | 曲線のピークが消失する。これは口から出せる呼気のスピードに限界があるため。 |
呼吸器で行う検査(BALFなど)
気管支鏡検査 | 気管支鏡を挿入し、気管支肺胞洗浄(BAL)を行う。 |
気管支鏡下生検(TBLB) | 気管支鏡でつまんで生検する。 |
胸腔鏡下生検(VATs) | 胸腔鏡で摘んで生検する。 |
【BALFの分類】
ミルク状 | 肺胞蛋白症 |
好中球↑ | 細菌性肺炎、ARDS、急性間質性肺炎、慢性気道感染症(DPBなど) |
好酸球↑ | 好酸球性肺炎、薬剤性肺炎、寄生虫など |
CD4/CD8比↑ | サルコイドーシス、農夫肺、ベリリウム肺 |
CD4/CD8比↓ | 夏型過敏性肺炎、特発性器質化肺炎、NSIP |
核医学検査
肺血流シンチグラフィ | 99mTc -MAAを静注し、肺の血流分布を測定する検査。健常肺では全体的にhotに描出されるが、肺血栓塞栓症などで血流が途絶えるとcoldに描出される。 |
肺換気シンチグラフィ | 133Xeガスを吸入し呼吸を止めて、体表の放射線を測定する検査。ガス交換のある健常肺は放射能を放つのでhotに描出されるが、換気が不十分な部位はcoldに描出される。 |
肺生検
経気管支肺生検(TBLB) | 気管支鏡下で鉗子を用いて肺組織片を採取する。 |
経皮的肺生検(TCLB) | 超音波またはCTガイド下で経皮的に胸膜直下または胸壁に近い肺の腫瘤性病変を採取する。気胸を起こすことがあるので注意。 |
血液検査
【肺バイオマーカー】
肺線維化(間質性肺炎)マーカー | KL-6 |
肺小細胞癌のマーカー | NSE(Neuron Specific Enolase)、ProGRP |
扁平上皮癌のマーカー | SCC、CYFRA |
腺癌のマーカー | CEA、SLX |
在宅酸素療法(HOT)
【HOTの適応基準】
①高度慢性呼吸不全 | 空気吸入下で安静時のPaO2 55Torr以下,またはPaO2 60Torr以下で睡眠時や運動時に著しい低酸素血症をきたす者 |
②肺高血圧症 | 酸素療法による肺動脈圧低下や肺血管抵抗の減少が期待できるため、PaO2の基準はない |
③慢性心不全 | NYHAⅢ度以上で睡眠時にCheyne-Stokes呼吸がみられ,無呼吸低呼吸指数(AHI)≧20の者 |
④チアノーゼ型先天性心疾患 | 低酸素発作時に救命的な酸素吸入を行う |
膜型人工肺(ECMO)
V-V ECMO | 呼吸不全に用いる 脱血:右大腿Vから刺入し先端を右房に留置 送血:右内頸Vから刺入し上大静脈へ |
V-A ECMO | 呼吸循環不全・循環不全に用いる(≒PCPS)=補助循環 脱血:右大腿Vから刺入し先端を右房に留置 送血:左大腿Aから刺入し下行大動脈へ |
コメント