下痢・食中毒

症候学

下痢の概要

下痢の診断:BSFS5〜7が24時間で3回以上出ること

急性下痢(ほぼ感染症、ほぼウイルス性) 慢性下痢
症状が4週間未満(多くは1週間以内、長くても2週間以内に症状改善) 症状が4週間以上持続

急性下痢の診察

①バイタルサイン異常と脱水症の有無を確認

以下に該当する場合は補液を検討

バイタル HR>sBP、起立性低血圧、意識障害
脱水症 24時間で10回以上の下痢、嘔気嘔吐による経口摂取不良、高齢者(70歳以上)

②問診

期間・頻度 体液量も評価
随伴症状 発熱、血便、腹痛は必ず確認、強い腹痛は虫垂炎の可能性
薬剤歴 新規に開始した薬剤の有無→あれば薬剤性下痢(特に抗生剤)の可能性
既往歴 担癌患者や免疫抑制薬・ステロイド内服など免疫不全状態→CMV腸炎
アレルギー歴 アナフィラキシー
食事歴 生もの、生野菜、肉類など食中毒
手術歴 瘻孔形成、盲端症候群など
動物接触歴 ミドリガメ、爬虫類などによるサルモネラ感染症など
海外渡航歴 旅行者下痢症
糖尿病の有無 糖尿病性ケトアシドーシス
IBD家族歴 炎症性腸疾患の家族歴
放射線治療歴 放射線性腸炎

③便性状から感染部位を推定

  大腸型 小腸型 穿孔型
性状 血便、粘血便 水様便、血便なし  
症状 強い腹痛、テネスムス、発熱 軽い腹痛、嘔気  
機序 炎症性 非炎症性 穿孔による
部位 大腸 上部小腸 下部小腸
便塗抹 WBCあり(多核球) WBCなし 単核球
ELISA法 ラクトフェリン大量 ラクトフェリン少量  
微生物 EIEC、EHEC、サルモネラ、赤痢菌、腸炎ビブリオ、カンピロバクター、赤痢アメーバ ロタウイルス、ノロウイルス、ETEC、ウェルシュ菌、セレウス菌、黄ブ菌 チフス菌、エルシニア・エンテロコリチカ、カンピロバクター

身体所見

腹部所見 PID、憩室炎の場合もある
CVA叩打痛 腎盂腎炎は下痢を呈することがある
聴診 レジオネラ肺炎は下痢を呈することがある

検査

便塗抹検査 メチレンブルー染色とグラム染色を行う
メチレンブルー染色 白血球(+)なら細菌性腸炎の可能性
グラム染色 カンピロバクター、サルモネラ
便培養  
CD抗原検査 3日間以上の入院歴、3ヶ月以内の抗菌薬暴露、免疫力低下患者

慢性下痢の診察

①大腸癌と炎症性腸疾患(IBD)を除外

以下の可能性がある場合は大腸内視鏡を行う

大腸癌 50歳以上での発症、体重減少、血便・黒色便、大腸癌の家族歴
IBD 若年者、発熱、夜間の下痢、血便、進行性の腹痛、関節痛、炎症性腸疾患の家族歴

②その他の器質的・機能的疾患を除外

薬剤性下痢 Datsan(ダットサン)で覚える
Diuretics:利尿薬
Anti acid:制酸薬
Theophylline & TKI:テオフィリン、チロシンキナーゼ阻害薬
Softener:緩下剤
Anti arrythima:抗不整脈薬
NSAIDs
慢性膵炎 アルコール多飲歴、急性膵炎の既往、脂肪便
糖尿病 四肢末梢のしびれなど糖尿病性神経障害
甲状腺機能亢進症 食欲亢進、体重減少、動悸、発汗、振戦
寄生虫感染 腹部膨満感、体重減少、好酸球増多
HIV関連下痢症 体重減少、微熱、同性間性交渉

③過敏性腸症候群(IBS)らしさを確認

IBS診断基準 6ヶ月以上前から症状が出現し、腹痛が最近3ヶ月の中の1週間につき少なくとも1日以上あり、以下2つ以上を満たす(ローマⅣ基準)
腹痛が排便と関連する
排便頻度の変化に関連する
便形状の変化に関連する

食中毒概要

食品衛生法により、食中毒は確定診断に至らなくとも「疑い」の時点で直ちに最寄りの保健所(保健所長)に届け出る必要がある。 患者は直前に食べたものを主に回想して答えるため、「5日前まで遡って,食べたものを教えてください」と根気強く聞き返す必要がある。 【食中毒の潜伏期】 ぶどう売る、美貌のサルも、カエル大(の大きさってことかな)

当日 ブドウ球菌、ウェルシュ菌
翌日 ビブリオ、ボツリヌス、サルモネラ
2日後 カンピロ、エルシニア、大腸菌

細菌性食中毒

毒素型食中毒

特徴として、①毒素が腸管上皮細胞を刺激し、発症まで数時間と早い②発熱・血便なし③抗菌薬が無効が挙げられる。また、菌の検出は困難。

原因菌 潜伏期間 原因食品 毒素 症状 加熱予防 治療
ボツリヌス菌 12〜36時間 真空包装商品、辛子蓮根、蜂蜜 ボツリヌス毒素(神経毒) 胃腸症状→眼症状、嚥下障害、四肢麻痺 有効 抗毒素血清
黄色ブドウ球菌 約3時間 弁当、おにぎり エンテロトキシン(耐熱性) 激しい嘔吐+下痢腹痛、夏に多い 無効 輸液
セレウス菌(嘔吐型) 1〜6時間 焼き飯、ピラフ 嘔吐毒(芽胞+) 激しい嘔吐、夏に多い 無効 輸液

感染型(生体内毒素型)

特徴として、①増殖して腸管内で毒素を産生し腸管上皮細胞を刺激する②原則、発熱なし。

原因菌 潜伏期間 原因食品 毒素 症状
セレウス菌(下痢型) 6〜16時間 肉類加工食品、プリン エンテロトキシン 腹痛+下痢。 夏〜秋に多い。
ウェルシュ菌 6〜18時間 カレー、シチュー エンテロトキシン 腹痛+水様便
腸炎ビブリオ 約12時間 生魚介類 耐熱性溶毒素など 上腹部痛+水様便+発熱。 夏に多い
コレラ菌 1〜3日 海産物、生水 コレラ毒素 重症では米のとぎ汁様便
毒素原性大腸菌(ETEC) 12〜72時間 生水 エンテロトキシン 水様便+腹痛+嘔吐 (旅行者下痢症の主な原因)
腸管出血性大腸菌(EHEC) 3〜5日 ハンバーガー、ユッケ、生乳 ベロ毒素 激しい水様便→血便+激しい腹痛。 時にHUSを併発し、死亡する。O157は致死率が高い。

感染型(感染侵入型)

特徴として、①増殖する必要があるため発症までの時間が長い②増殖した菌が腸管上皮細胞を直接障害し、それに対して好中球が戦うため発熱する③治療は輸液+必要に応じ抗菌薬。

原因菌 潜伏期間 原因食品 機序 症状
腸管病原性大腸菌(EPEC) 12〜72時間 不詳 上皮細胞に付着 水様便+腹痛+発熱
腸管組織侵入性大腸菌(EIEC) 12〜48時間 不詳 上皮細胞に侵入 水様便→血便+しぶり腹+発熱(赤痢様症状)
サルモネラ属菌 6時間〜3日 鶏卵、生肉 上皮細胞に侵入 水様便(時に血便)+腹痛+発熱+嘔吐
細菌性赤痢 1〜3日 果物、生水 上皮細胞に侵入 水様便→血便+しぶり腹+発熱
カンピロバクター 2〜7日 鶏の生肉 上皮細胞に侵入 まず発熱→水様便(時に血便)+腹痛
腸チフス・パラチフス 10〜14日 果物、生水 上皮細胞に侵入 バラ疹・肝脾腫→水様便(時に血便)

ウイルス性食中毒

原因ウイルス 潜伏期間 原因食品 症状 治療
ノロウイルス 1〜2日 二枚貝の生食 水様便+嘔吐。冬に多い 輸液
E型肝炎ウイルス 6週間 ジビエ肉の生食 発熱+嘔吐+腹痛 休養

寄生虫食中毒

サバに寄生するアニサキス、ヒラメに寄生するクドア・セプテンプンクタータ、馬肉に寄生するサルコシスティス・フェアリーなどがある。

自然毒による食中毒

【動物性自然毒】

  • ふぐ毒(テトロドトキシンTTX):フグの卵巣や肝臓に多く存在し、食後30分〜3時間で症状が表れる。加熱は無効。対症療法のみ、呼吸困難には人工呼吸。
  • 麻痺性貝毒・下痢性貝毒:ムラサキガイやホタテガイの中腸腺を摂取し、麻痺性貝毒の場合は食後30分、下痢性貝毒の場合は食後30分〜4時間で症状が出る。

【植物性自然毒】

  • 毒キノコ:ツキヨタケが過半数。
  • ジャガイモの芽:ソラニンが原因。ChE阻害作用を持ち、副交感神経作用と中枢神経作用
  • 真菌による食品媒介:カビ毒素(マイコトキシン)によって起こる。

化学物質による食中毒

【アレルギー性食中毒(ヒスタミン中毒)】

ヒスチジン含有の多いサンマ、アジ、イワシなどの魚介類加工物にモルガン菌などが繁殖し、ヒスチジンが脱炭酸されてヒスタミンとなり、それを摂取して中毒を起こす。食後2時間後に症状を起こし、抗ヒスタミン薬投与が有効である。

【有機化学物質混入による食中毒】

水俣病水銀中毒、森永ヒ素ミルク中毒、カドミウムによるイタイイタイ病、PCBによるカネミ油症、中国餃子にメタミドホス混入など

コメント

タイトルとURLをコピーしました