婦人科 総論

産婦人科

解剖

女性生殖器の構造

内性器 <付属器(卵巣+卵管)>
卵管:線毛円柱上皮で全長約10cm、卵巣:母指頭大(触知しない)
卵巣は排卵するため腹膜に覆われておらず、腹腔内に露出している!
<子宮>
円柱上皮、大きさは鶏卵大屈(子宮内膜→子宮筋層→子宮漿膜
上部2/3=子宮体部(頂部は子宮底という)、下部1/3=子宮頸部
<膣>
重層扁平上皮、子宮頚管との移行部=扁平円柱上皮境界(SCJ)、常在菌であるラクトバチルス属(乳酸桿菌)のデーデルライン桿菌などによってpH4前後に保たれて自浄作用を有する。
外性器 外陰:重層扁平上皮
周囲の臓器 前方に膀胱、膀胱と子宮の間=膀胱子宮窩
後方に直腸、子宮と直腸の間=ダグラス窩(直腸子宮窩)
子宮支持装置
(特に頸部が固定されている)
卵巣提索、別名:骨盤漏斗靱帯(骨盤壁ー卵巣、卵巣動静脈が並走)+固有卵巣索(卵巣ー子宮、固提で覚える)、子宮円索(子宮ー鼠径管)、子宮広間膜(子宮以外を覆う腹膜)
基靭帯(子宮頸部ー骨盤壁、靭帯上縁を子宮動脈が並走)
:膀胱子宮靭帯(靭帯の間を尿管が通過)+恥骨尿道靭帯
:仙骨子宮靭帯
骨盤底筋群(肛門挙筋など)

血行の走行

動脈路 ①卵巣A:腹部大Aから直接出て卵巣Aとなる→卵巣提索→卵巣→子宮
②子宮A:内腸骨Aから分岐して子宮Aとなる→基靭帯上縁→子宮→卵巣
静脈路 ①左卵巣V→左腎V(腹部大Aをまたぐため左腎Vは長い)
②右卵巣V→下大V

尿管の走行

尿管に卵入れた後だから、早朝前のシコシコ防止中!

①腎盂 巣動静脈
総腸骨A
宮A本幹の
=尿管トンネルの中
宮靭帯
の間を穿通
⑥膀胱

生理

基礎体温(BBT)

基礎体温は基礎代謝のみを反映しており、起床前に舌下で測定する。

正常なBBT ①高温期の持続が11〜16日(黄体の寿命は約14日)
②高温期と低温期の差が0.31度以上
③排卵期に温度陥落あり、高温期に温度陥落なし
BBTからわかること 排卵の有無:無排卵では1相性(無排卵ではプロゲステロン分泌がないためダラダラとした出血が起こる=破綻出血
黄体機能の推定:高温期が10日以内、または高温期と低温期の差が0.3度以内では黄体機能不全の疑い(着床障害により不妊となる)
③妊娠の早期診断:高温期が17日以上持続すると妊娠の疑い

ホルモンの分泌機構

子宮内膜の厚さは閉経前では15mm以上、閉経後では5mm以上で異常を疑う!

卵胞期
(月経期+増殖期
①視床下部からGnRHがパルス状に分泌される(持続的分泌されると前葉のGnRH受容体がダウンレギュレーションする)
②下垂体前葉から分泌されたLHは、卵巣の卵胞莢膜細胞に作用してコレステロール→アンドロゲンに変換させる
③下垂体前葉から分泌されたFSHは、卵巣の顆粒膜細胞に作用してアロマターゼが活性化されることで、アンドロゲン→エストロゲンに変換させる。もう一つの作用として、FSHは二次卵胞を成熟卵胞にする(直径20mm)
アクチビンインヒビンは卵胞の顆粒膜細胞から分泌され、前者は卵巣のFSH作用を促進し、後者は下垂体に作用してFSH分泌を抑制する。このように、FSH分泌と作用の調節を行っている
④エストロゲンの作用によって子宮内膜の機能層(海綿層+緻密層)が増殖・肥厚し、らせん動脈が増生する
排卵期 ①エストロゲン濃度一定以上になると(Eのピーク)、GnRHがサージ状に分泌
②LHサージが起こり(2日間)、ピークの10〜12時間後に排卵
③排卵後、卵胞壁に残存した顆粒膜細胞と莢膜細胞が黄体に変化
黄体期
分泌期
①LHは黄体に作用してプロゲステロン(P)が産生され、またエストロゲン(E)も黄体から産生される。その結果、子宮内膜が分化する(子宮内膜腺細胞の核下にコラーゲン蓄積による空胞、機能層の脱落膜様変化、らせん動脈の更なる増生)
②妊娠成立しなければ黄体が白体化してE・Pが低下し、子宮内膜の虚血性変化によって脱落膜様に変化した機能層が壊死・剥離して、基底層以外は子宮外に排出される(消退出血=排卵性周期によって起こる出血)

エストロゲンの作用

①E1(エストロン):閉経後にメインとなる(脂肪細胞で産生)
②E2(エストラジオール):最も活性が強い
③E3(エストリオール):妊娠中に作られる(妊娠中の胎児・胎盤機能の評価に使用)

乳房 乳腺の発達、乳汁分泌抑制(プロゲステロンと同じ作用)
子宮 子宮内膜の増殖・肥厚
頸管粘液の分泌量↑牽系性↑粘稠度↓:排卵前のエストロゲンのピークで顕著
妊娠時子宮 子宮筋の発育・増大、頸管熟化
膣粘膜の角化・肥厚:コラーゲン合成促進
膣内pH↓:デーデルライン桿菌はエストロゲン作用によって作られたグリコーゲンを分解して乳酸を生成する(小児や高齢者ではE↓により膣炎起こりやすい)
皮膚 コラーゲン合成促進
その他 女性の第二次性徴発現:乳房の発育、脂肪沈着、子宮や膣の発育促進
脂質代謝 LDL低下作用:肝LDL受容体数を増加させ、LDL取りこみ増加により血中LDL濃度を低下させる
HDL増加作用:肝性TGリパーゼ(HTGL)活性を抑制し、肝臓のHDL取りこみを促進する。HTGL活性の抑制により血中HDLは上昇する
骨代謝 骨吸収抑制作用:カルシトニンの分泌促進、活性型ビタミンDの合成促進により骨吸収抑制
血液・血管 凝固系亢進作用:経口避妊薬内服開始4ヶ月以内に生じやすい
血管拡張作用:エストロゲンは肝で代謝される。肝機能障害により体内に蓄積し、血管を拡張する。その結果、手のひらの血管拡張により手掌紅斑が、顔面あるいは前胸部の血管拡張によりクモ状血管腫がみられる

プロゲステロンの作用

プロゲステロンは妊娠の維持に働く!

乳房 乳腺の発達、乳汁分泌抑制(エストロゲンと同じ作用)
子宮 子宮内膜の分泌期様変化、頸管粘液の分泌量↓牽系性↓粘稠度↑
エストロゲンの子宮内膜増殖を抑える働きを持つ!
妊娠時子宮 子宮筋の収縮抑制、子宮内膜の脱落膜様変化
卵巣 排卵抑制
膣粘膜の菲薄化
その他 基礎体温の上昇、妊娠維持に必須、一時的体重増加

体毛(多毛)

①男性毛 精巣由来の高濃度テストステロンが支配 前頭部・頭頂部、あご、前胸部、背部、恥毛上半分、手足の体毛
②両性毛 副腎や卵巣由来の低濃度アンドロゲンにより支配 腋毛、恥毛下半分の体毛
③非性毛 アンドロゲンの影響を受けず,成長ホルモンや甲状腺ホルモンが関与 眉毛、睫毛など

【多毛症】

男性性毛型多毛症(剛毛) Cushing症候群、多囊胞性卵巣症候群(PCOS)
非性毛型多毛症(うぶ毛) 神経性やせ症(神経性食思不振症)

接触出血(多くは性行為出血)

①子宮頸癌
②子宮腟部びらん
③頸管粘膜ポリープ 特に妊娠時に出血しやすくなる
④萎縮腟炎
⑤筋腫分娩
⑥トリコモナス腟炎

婦人科検査

子宮卵管造影 <主に不妊症のスクリーニングに用いられる>
①子宮の形の異常:単角子宮や双角子宮など
②子宮内腔の異常:子宮内膜ポリープ、子宮内腔の癒着など
③卵管の通過性:通過障害部位の特定,卵管の走行異常の有無
④卵管周囲の癒着など
子宮内感染や子宮体癌がある場合、病変を拡大させる恐れがあるため禁忌

女性のライフサイクル

早発卵巣不全 POF:Premature Ovarian Failure(早発閉経)

病態 40歳までに閉経期と同じ内分泌動態となり、続発無月経を生じる疾患。
原因は早期卵胞喪失とゴナドトロピン抵抗性卵巣症候群に分類できる。
症状 低エストロゲン症状:無月経、不妊、更年期症状、萎縮性膣炎、骨粗鬆症、脂質異常症
検査 【画像検査】
経膣エコー:卵胞が認められない
治療 エストロゲン+ゲスターゲン投与

★更年期障害 climacteric disturbance

病態 卵巣機能の低下によるエストロゲン低下と、それに伴うゴナドトロピン増加によって自律神経失調症状や精神神経症状などの不定愁訴を呈する一連の症候群で、器質的疾患は認めない。症状は閉経前後の数年に現れる。
症状 ①月経不順:機能性出血がみられる
②自律神経症状:発汗ほてり、のぼせ、動悸
③精神症状:易怒性、抑うつ、不眠、頭痛、めまい
④神経症状:手足の痺れ、耳鳴
⑤運動器症状:易疲労感、腰痛
検査 【血液検査】
エストロゲン(特にE2)↓、FSH↑LH↑、総コレステロール↑(LDL↑)
治療 【ホルモン補充療法(HRT)】
HRTによって症状緩和だけでなく、脂質代謝改善、骨粗鬆症や萎縮性膣炎の予防も行える
E・P併用:E単独投与は子宮体癌のリスク↑のため
E単独:子宮摘除後の患者
※エストロゲン依存性悪性腫瘍(乳癌・子宮体癌)、血栓症・冠動脈疾患・脳卒中の既往、妊娠疑いにはE投与禁忌!
※経皮投与では直接全身循環系に入るため、経口剤と比較して中性脂肪の上昇作用がなく、心血管イベントの危険が少ないとされる。

★骨盤臓器脱(子宮脱、膀胱瘤、直腸瘤、小腸瘤、膣断端脱)

病態 閉経によるエストロゲン低下、妊娠、分娩による骨盤支持組織、子宮支持組織の脆弱化(特に高齢の多産婦)によって骨盤臓器脱が生じる。
症状 子宮脱:性器出血、帯下増加、排尿障害(頻尿、腹圧性尿失禁、尿閉
膀胱瘤:排尿困難
直腸瘤:排便困難
検査 【身体検査】
内診・視診:子宮・膀胱・直腸の下垂や脱出を認める
治療 【保存療法】
骨盤底筋訓練、子宮脱用のペッサリー挿入
【手術】
Manchester手術:子宮支持組織を短縮補強
腹腔鏡下仙骨膣固定術(LSC)

月経異常

鑑別については症候学の月経異常を参照。

子宮からの出血パターン

消退出血
Pあり
主にPによって維持されてきた分泌期内膜が、Pの急激な低下によって内膜が維持できずに脱落する時に見られる出血。
破綻出血
Pなし
Eのみで維持されている増殖期内膜が、Pの作用がないため内膜が維持できなくなり、内膜が不規則に脱落する時に見られる出血。多くは無排卵周期症に生じる。

無排卵周期症

病態 ほぼ規則的に月経様出血はあるが、排卵を伴わない病態。
視床下部・下垂体の障害によりGnRHのパルス状分泌の障害が原因と考えられている。
初経後・閉経前後の数年間は生理的に見られる(機能性出血)。
症状 ①月経周期・月経量・月経持続期間の異常
②不妊
検査 BBT:低温1相性
治療 第1度無月経の治療を参照

黄体機能不全

病態 黄体からのE・P分泌不全によって子宮内膜の発育不全が起こり着床障害をきたす。
原因として視床下部・下垂体・卵巣・子宮内膜の異常、加齢、高PRL血症がある。
症状 高温期が10日以内、高温期と低温期の差が0.3度以内
※卵胞期は19日±6日と個人差大きいが、黄体期は12日±2日と個人差が少ない
検査 【血液検査】黄体期中期のプロゲステロン濃度10ng/mL未満
治療 挙児希望なし:治療不要
挙児希望あり:黄体期にゲスターゲン投与、hCG投与による黄体刺激、クロミフェン投与による排卵誘発。潜在性高PRL血症を合併している場合はブロモクリプチン投与。

月経前症候群 PMS:Premenstrual syndrome

病態 別名、月経前緊張症(PMT)。
月経前3〜10日(黄体期)の間に多彩な症状が出現し、月経発来とともに減退・消失する。
症状 精神症状:イライラ、抑うつ、易興奮性
身体症状:乳房痛、腹部膨満感、頭痛、顔面や四肢の浮腫
検査
治療 対症療法

月経困難症

病態 月経に随伴して起こる病的症状により日常生活に支障をきたす。
機能性:10代後半〜20代前半以降に多い>
排卵性月経に伴って生じる。プロスタグランジンによる子宮平滑筋の過収縮、心因性因子などが原因。機能性では、月経ごとに痛みの程度と持続日数は異なる傾向。
器質性:30歳以降に多い>
無排卵月経でも生じる。子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫、クラミジア感染、子宮形態異常などが原因。器質性は毎月症状がある。
症状 月経開始直前から月経中にかけて、
下腹部痛、腰痛:PGによる子宮平滑筋の過収縮、器質性疾患による増悪
②頭痛、悪心:自律神経症状?
検査
治療 機能性:NSAIDs、ブチルスコポラミン、低用量ピル・LNG-IUS(子宮内膜増殖抑制)
器質性:原疾患の治療、低用量ピル・LNG-IUS(子宮内膜増殖抑制)

★★無月経

生理的無月経 初経前、閉経後、妊娠、産褥、授乳期
病的無月経 原発無月経:18歳を過ぎても初経なし(卵巣性が最多)
続発性無月経:90日以上月経が停止(視床下部性が最多:体重減少が約半数)

【原因部位】

原発 続発
視床下部性 Kallmann症候群(GnRH産生障害嗅覚異常
Prader-Willi症候群(GnRH合成異常+筋緊張低下)
Chiari-Frommel症候群(分娩後の高PRL血症)
体重減少性無月経(病識がない場合は神経性食欲不振症)
下垂体性 先天性ゴナドトロピン欠損症 Sheehan症候群(分娩時大量出血)
リンパ球性下垂体炎(妊娠後期の発症)
高PRL血症(プロラクチノーマ)
卵巣性 Turner症候群 早発卵巣不全(早発閉経)
子宮性 MRKH症候群※(子宮+腟欠損)
子宮形態異常
Asherman症候群(子宮腔癒着症)
子宮内膜炎による癒着
膣性 処女膜閉鎖症
その他 副腎性器症候群
アンドロゲン不応症
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
薬剤性高PRL血症
原発性甲状腺機能低下症(高PRL血症)
放射線、ストレス、肥満

※MRKH症候群=メイヤー・ロキタンスキー・キュスター・ハウザー症候群

【原発無月経の鑑別】

原発無月経は遺伝的要因が多く、家族歴・血縁者の月経状況・身体的特徴を確認すること!

①外性器の診察 <男性型に近い>
副腎性器症候群
<膣の異常>
処女膜閉鎖症、MRKH症候群
<子宮膣部がない>
アンドロゲン不応症、MRKH症候群
②染色体検査 <45Xなどの異常>
Turner症候群
③血中LH、FSH <高値>
卵巣性無月経:卵巣形成不全
<低値〜正常>
視床下部性無月経:Kallmann症候群、Prader-Willi症候群
下垂体性無月経:先天性ゴナドトロピン欠損症
④上記の<低値〜正常>の場合、重症度の評価を行う <ゲスターゲン試験で消退出血あり>
第1度無月経
<エストロゲン+ゲスターゲン試験で消退出血あり>
第2度無月経
<上記2つで消退出血なし>
子宮性無月経

【続発無月経の鑑別】

続発無月経は排卵障害が原因の場合が多い。

①PRL測定 <PRL高値>
高PRL血症(プロラクチノーマ、Chiari-Frommel症候群など)
②血中LH、FSH測定 <LH、FSH高値>
卵巣性無月経:早発閉経
<LH高値、FSH正常>
PCOS
③GnRH試験(②でLH、FSH正常) <反応あり>
視床下部性無月経:体重減少性、ストレス(心因性)→腋毛・恥毛の脱落なし
<反応なし>
下垂体性無月経:Sheehan症候群→腋毛・恥毛の脱落あり
④障害部位が絞れたら、重症度の評価を行う <ゲスターゲン試験で消退出血あり(E分泌あり・P分泌なし)>
第1度無月経(子宮内膜の増殖あり):多くは視床下部性
<エストロゲン+ゲスターゲン試験で消退出血あり(E・P分泌なし)>
第2度無月経(子宮内膜の増殖なし):卵巣性、下垂体性、視床下部性
<上記2つで消退出血なし>
子宮性無月経:Asherman症候群など

【無月経の治療法】

挙児 第1度無月経(P分泌なし) 第2度無月経(E・P分泌なし)
希望
あり
排卵誘発法 クロミフェン療法※※※
(↑視床下部に対する抗E作用によりGnRH分泌促進)
ゴナドトロピン皮下注療法
(↑直接卵巣に作用するhMG-hCG療法※※など)
希望
なし
ホルモン療法※ ゲスターゲン(P)投与
(Holmstrom療法)
↑消退出血を起こせるようになる
前半E投与→後半E+P投与
(Kaufmann療法)
↑次周期の自然排卵を期待

※第1度無月経はエストロゲン依存性腫瘍(子宮体癌・乳癌)のリスクを低下させる目的として、第2度無月経は骨量維持・女性らしさを目的としてホルモン療法を行う。
※※hMG-hCG療法はゴナドトロピン療法の一つ(エッチな漫画とCGでゴー):hMGはFSH作用により卵胞発育、hCGはLH作用により排卵を誘発する。
※※※クロミフェンは抗E作用を有するので、排卵はさせても頸管粘液の粘稠度が低下しない。そのため、不妊治療の成績が満足いかないことがある。

多嚢胞性卵巣症候群 PCOS:Polycystic ovary syndrome

病態 視床下部-下垂体-卵巣系の異常により、LH優位や莢膜細胞におけるアンドロゲン過剰産生が生じる。また、糖代謝異常により肥満やインスリン抵抗性も生じる。
症状 初経から続く月経不順(希発月経)・無月経:約50%は無月経(BBT1相性)
②多毛・ニキビなどの男性化徴候(約25%):アンドロゲン過剰による
不妊:LHが常に高くLHサージが起こらないため無排卵となる
検査 【血液検査】
LH↑FSH正常(LH/FSH比↑)or テストステロン↑、GnRH負荷でLH過剰↑
【画像検査】
経腟エコー:両側卵巣のネックレスサイン(両側性に肥厚した卵巣白膜の下に多数の卵胞の嚢胞状変化)
【ゲスターゲン試験】
無月経の場合、ゲスターゲン投与で消退出血を認める(第1度無月経)
治療 【生活指導】
肥満の場合はまず減量(インスリン抵抗性を改善し排卵誘発)
【薬物療法】
挙児希望なし:無月経の治療法と同様(子宮体癌リスク↓)
挙児希望あり:無月経の治療法と同様(OHSSと多胎妊娠に注意!)
【手術療法】
腹腔鏡下卵巣多孔術(LOD):クロミフェン抵抗性の場合に実施。肥厚した卵巣白膜を焼灼して排卵促進+莢膜細胞ダメージによるアンドロゲン産生を↓させる

★卵巣過剰刺激症候群 OHSS:Ovarian HyperStimulation Syndrome

疫学 リスク因子:35歳未満の若年者、PCOS患者、OHSS既往はハイリスク
病態 ゴナドトロピン療法の副作用。hMGによって卵巣が過剰刺激され卵巣が腫大し、多数の卵胞が発育する。hCGによって血管透過性亢進が起こり、Albなどの蛋白質が血管外に漏出して(低蛋白血症)腹水や胸水が見られる。その結果、血液濃縮となり、乏尿、急性腎不全、血栓傾向となる。また、腹水によって卵巣が捻転して急性腹症になる場合もある。
症状 ゴナドトロピン療法の後に、
腹部膨満感:漏出性腹水の貯留
呼吸困難:漏出性胸水の貯留
乏尿→急性腎不全:循環血漿量減少による
検査 【画像検査】
エコー:卵巣腫大(透過性↑)、卵巣に多数の卵胞や黄体(+)、腹水(+)
胸部X線:重症で胸水(+)
【血液検査】
Ht↑WBC↑(血液濃縮状態)、TP↓Alb↓、凝固能亢進、高K血症(腎不全のため)
治療 ①ゴナドトロピン製剤の中止
②輸液:血液濃縮、血管内脱水、電解質異常を改善
Alb投与:循環血漿量の確保、低蛋白血症(胸水・腹水)の改善
②低用量ドパミン持続投与:腎血管を拡張し血流を増加+GFRも増加させ、急性腎不全を予防し、尿量を確保

性分化と性器形態の異常

性分化疾患 DSD:Disorders of sex development

代表的疾患
①性染色体異常DSD Turner症候群、Klinefelter症候群
②46,XX DSD 先天性副腎皮質過形成(21-OH酵素欠損症、11β-OH酵素欠損症)
③46,XY DSD アンドロゲン不応症
②③共通のDSD Kallmann症候群

Turner症候群・Klinefelter症候群は小児科の先天異常を参照。

★先天性副腎皮質過形成(21-水酸化酵素欠損症)

疫学 1/20000人に発症
病態 染色体性遺伝によって、副腎皮質や性腺でホルモン生合成に関与する酵素が欠損する先天性疾患。男性化症状が出るものが大部分である。
先天性副腎皮質過形成のうち約90%は21-水酸化酵素欠損症であり、新生児マススクリーニングで判明する。21-水酸化酵素欠損症では、酵素欠損によりAld・コルチゾール低下となる。その結果、ACTH↑により副腎皮質過形成、アンドロゲン過剰となる。
症状 アンドロゲン過剰症状(男性化症状)
女児:陰核肥大、多毛など男性化徴候、原発無月経
男児:陰茎肥大、恥毛発現などの思春期早発症状
②コルチゾール欠乏症状
哺乳力低下や嘔吐
③アルドステロン欠乏症状
低血圧脱水、ショック
④ACTH過剰症状
色素沈着
検査 【血液検査】
Ald低下により低Na血症、高K血症、代謝性アシドーシス
コルチゾール低下によりACTH↑
【新生児マススクリーニング】
17-OHP↑
治療 乳児期からヒドロコルチゾン補充(発熱時には通常の2〜3倍投与)、NaCl補充

【鑑別】十の位が1のやつはAld作用一の位が1のものはアンドロゲン作用

21水酸化酵素欠損 17α-水酸化酵素欠損 11β-水酸化酵素欠損
上昇 アンドロゲン↑
女性:男性化
男性:思春期早発症
Ald↑(K↓)
高血圧・筋力低下
アンドロゲン↑
女性:男性化
男性:思春期早発症
低下 Ald↓、CORT↓
低血圧・低血糖・低Na血症
アンドロゲン↓
男性:女性化
Ald↓、CORT↓
高血圧(DOC↑のため)

★アンドロゲン不応症

病態 性遺伝によるアンドロゲン受容体の異常のため、染色体は男性型46XYで停留精巣からテストステロンが分泌されるにもかかわらず、テストステロンが作用できないため外見や心は女性となる。
症状 【身体的特徴】
比較的高身長、腋毛・恥毛ほぼなし、乳房発育はあり
【症状・合併症】
不妊:原発無月経のため
検査 腹部 or 経直腸エコー:卵巣・子宮を認めない、膣は盲端(抗ミュラー管ホルモンが分泌されるため卵巣・子宮・腟上部は形成されない)
②血液検査:テストステロンは正常男性と同等値、LH↑FSH↑
③染色体検査:46XYで確定診断
治療 癌化予防のため停留精巣摘出、摘出後は第二次性徴誘発のためエストロゲン補充

性器形態の異常

処女膜閉鎖症 初経がなく、月経血貯留のため激しい下腹部痛あり(月経モリミナ)
膣欠損症 MRKH症候群は卵管を除くミュラー管の発生異常で膣欠損を生じる
子宮形態異常 中隔子宮では不妊・習慣流産をきたすことがある

性器の炎症・STI

※骨盤腹膜・付属器・子宮体部の炎症をまとめて骨盤内炎症性疾患(PID)という。クラミジアや淋菌感染は子宮体部→付属器→骨盤腹膜と上行してPIDを引き起こす。

骨盤腹膜の炎症※ 骨盤腹膜炎
付属器の炎症※ 卵管炎、卵巣炎(腹腔に露出しており骨盤腹膜炎に移行しやすい)
子宮体部の炎症※ 子宮内膜炎、子宮筋層炎、子宮傍結合織炎
子宮頸部の炎症 子宮頸管炎
膣や外陰の炎症 膣炎、外陰炎、バルトリン腺炎→腺閉塞でバルトリン腺膿瘍

性感染症

疾患 病原体
細菌 淋菌感染症 ナイセリア・ゴノレア
梅毒 梅毒トレポネーマ
性器クラミジア感染症 クラミジア・トラコマチス
性器マイコプラズマ感染症 マイコプラズマ・ジェニタリウム
ウイルス 性器ヘルペス HSV
尖圭コンジローマ HPV
B型ウイルス性肝炎 HBV
HIV感染症 HIV
真菌 カンジダ外陰膣炎 カンジダ菌
原虫 膣トリコモナス症 膣トリコモナス原虫

★★膣炎の鑑別

萎縮性腟炎 細菌性腟症 カンジダ外陰腟炎 腟トリコモナス症
病態 別名:老人性腟炎
エストロゲン低下による腟壁の菲薄化や腟の自浄作用低下による常在菌の繁殖
ラクトバシラス属減少による、好気性菌や嫌気性菌などの複数菌感染・過剰増殖 カンジダを参照 トリコモナスを参照
もこもこ泡泡トリコモナス
症状 少量の不正性器出血、外陰部掻痒、性交痛、腟壁の萎縮 半数以上が無症状
アミン臭(魚臭)の帯下がする
外陰部の強い掻痒・軽度発赤・腫脹、腟壁に白色帯下付着 外陰部掻痒、腟の斑状発赤、子宮腟部の溢血性点状出血
帯下 白〜黄色 灰色 酒粕状 黄色泡沫状
治療 エストリオール腟錠
エストロゲン経口薬
腟洗浄
メトロニダゾール腟錠・経口薬
腟洗浄
抗真菌薬外用・腟錠・内服
メトロニダゾール経口薬

不妊症

女性は35歳ぐらいで約90%の卵子を消費している。

不妊症

生殖年齢の男女が通常の成功を継続しているにもかかわらず1年妊娠しない場合を不妊という。現在、日本では出生約20人に1人(約5%)が体外受精・胚移植による児である。

【妊娠成立のための女性側の条件】

①排卵がある、②卵管の通過性がある、③子宮内腔に明らかな異常のない

不妊因子 原因 二次検査
女性
不妊
内分泌・排卵因子
(約30%)
視床下部→下垂体→卵巣→子宮系に異常が生じ、ホルモン分泌異常から排卵障害をきたす。
【スクリーニング検査】
・基礎体温
・ホルモン測定(LH、FSH、PRL、E、P)
・エコー
ゲスターゲン試験
GnRH試験
甲状腺機能検査
耐糖能検査
TRH検査
染色体検査
卵管因子
(約30%)
受精・卵割の場である卵管が、閉塞などで妊娠の妨げとなる。
【スクリーニング検査】
・子宮卵管造影、エコー下卵管造影
・クラミジア検査
腹腔鏡検査
子宮因子
(約20%)
子宮奇形、子宮筋腫、子宮内腔の癒着(Asherman症候群)、子宮腺筋症によって子宮に着床できない。
【スクリーニング検査】
・エコー
・子宮卵管造影
子宮鏡検査
CT
MRI
頸管因子
(約10%)
何らかの原因で正常では存在しない抗精子抗体が存在する場合に精子の進入を阻害し結果として受精を阻害する。
【スクリーニング検査】
・Huhnerテスト(精子と頸管粘液の適合性試験)
・頸管粘液検査
・精子不動化試験
・イムノビーズテスト
その他 子宮内膜症、黄体機能不全
男性
不妊
造精機能の異常 男性不妊の約90%を占める。原因の多くは特発性だが、精索静脈瘤、両側停留精巣、Klinefelter症候群などもある。
【スクリーニング検査】
・Huhnerテスト
・精液検査
内分泌検査
精管造影
精巣生検
染色体検査

不妊治療の流れ

④以降は生殖補助医療(ART)と呼ばれる。

①タイミング法 BBTから排卵日を予測して性交のタイミングを指導する
②卵巣刺激 タイミング法に合わせて排卵誘発剤を併用する
③人工授精(IUI) 採取した精液を洗浄濃縮して子宮腔内に注入(排卵誘発剤を併用)
<適応>
①頸管因子:頸管を物理的に回避できる
②性交障害:勃起不全などに対して
④体外受精(IVF) 排卵誘発剤に発育した卵胞から採卵し、運動良好な精子を用いて培養液中で卵子を受精させる。胚培養した後、胚移植(ET)する。
<適応>
①卵管因子:両側卵管閉塞
②男性不妊:乏精子症
③内分泌因子:子宮内膜症
⑤顕微授精(ICSI) IVFで受精障害がある場合、顕微鏡下で精子を卵細胞内に注入する。胚培養した後、胚移植(ET)する。

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